フランスの法学者。ロレーヌの河川森林査察官の子に生まれ,ナンシー大学卒業。アルジェ大学の教壇に立ち,1889年ディジョン大学に転じ,1901年以降母校に戻り31年退職に至るまでその民法講座にとどまった。民法典の条文と形式論理とに固執する注釈学派の解釈方法論を体系的に批判し今日的方法の基礎を構築した主著《実定私法における解釈方法と諸法源--批判的試論》(1899)は,ドイツ法学の成果をも咀嚼(そしやく)したフランス法学の記念碑的古典であり,諸外国における評価も高い。彼は,立法者の予想しなかった新たな社会的状況に関して,注釈学派のごとき立法者意思の推定だけでなく,規定の文言のみを新たな状況と適合的に解釈するサレイユの進化的解釈をも否定し,中間的解決として,他の諸法源,とくに慣習法への依拠を承認するとともに,これらの法源の存在しない場合には,客観的規範の探求を判事に許す。この探求が,有名な〈自由な学問的探求libre recherche scientifique〉であり,判例や法的伝統の考慮はもちろんとして,演繹論理,直観,類推などの重要性を力説しており,スイス民法典(1907)1条にも影響を与えた。彼は,この解釈方法論を郵便による私信の制度に適用して論じた後(1911),いわば続編としての《実定私法における学問と技術》(全4巻,1914-24)において深め,〈学問〉すなわち実定法上,歴史上,道徳上の所与(そこでは合理的所与としての自然法も特筆される)の研究と,〈技術〉すなわち法規範の具体的適用に必要な構築ないし法的推論の諸技術との両面を総合的に考察した。総じて,彼は,古典的な法・法学とそれに対する社会科学的批判とを統合し,20世紀の私法解釈論および法哲学の中心的部分を基礎づけた優れた法思想家であり,かつ篤実な教育者であった。98歳の誕生日前日に没するまで,キノコ栽培業者の所得税の問題から一種の法認識論的省察までにわたる著作の手を休めなかった。
執筆者:北村 一郎
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フランスの法学者。ディジョン大学(1891~1901)およびナンシー大学(1901~1925)で民法を担当する。彼は『実定私法における解釈方法と法源』(1899)において、従来の法学界の主流が法典の完結性を前提とし、すべての法的問題を法典からの演繹(えんえき)によって解決しようとする立場をとるのを批判し、新しい解釈方法を提唱した。彼は法典および慣習法には限定された役割しか認めず、法典および慣習法によって解決が与えられない場合には、裁判官は「自由な科学的探究」libre recherche scientifiqueによって新しい解決をみいだすべきであると説く。のちに大著『実定私法における科学と技術』4巻(1915~1924)において、この科学的自由探究に哲学的基礎を与えた。法典の進化的解釈を唱えたサレイユと並んで、ジェニーは、社会の変化がようやく顕著になった20世紀初頭における法解釈学に、新しい方法を与えることに寄与したといえる。
[高橋康之]
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