自由法論(読み)ジユウホウロン(英語表記)Freirechtslehre[ドイツ]

デジタル大辞泉 「自由法論」の意味・読み・例文・類語

じゆう‐ほうろん〔ジイウハフロン〕【自由法論】

法は固定した概念にとらわれるべきものでなく、条理や社会的現実面に即するように、自由に運用されるべきであるとする主張。19世紀末から20世紀初めにかけて、ドイツフランスなどにおいて、従来の概念法学に対する反動として起こった革新的な法学方法論自由法学

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改訂新版 世界大百科事典 「自由法論」の意味・わかりやすい解説

自由法論 (じゆうほうろん)
Freirechtslehre[ドイツ]

20世紀への世紀転換期に,ドイツやフランスで興った従来の概念法学的,法実証主義的傾向に対して,科学主義に即応して法曹の法解釈に自由な創造力を与えようとした,法律学の革新運動。自由法運動Freirechtsbewegungともいう。もっとも典型的にあらわれたのはドイツである。ここでは,中世以来の普通法学を母胎にして,法秩序の無欠缺(むけんけつ)性,論理的完結性,体系的整序性を前提に,精緻な概念構成と厳格な形式論理による,いわゆる概念法学的思考がピークに達していた。それは高度に発展した資本主義と技術革新の社会現象に適合した法技術学でもありえたが,他面で制定法規と法概念との関係で裁判官の自働機械化の性格はぬぐいきれず,規範と現実の乖離(かいり)の問題を解消しきれなかった。そこに新しい時代潮流と呼応して起こった法曹の運動が自由法論である。カントロビチエールリヒフックスErnst Fuchsらが中心になったが,彼らは教会組織に反抗した〈自由宗教〉〈自由思想〉の運動とも連動しており,たんに法曹の中だけの運動ではなかった。とくにフックスはラディカルな運動の先頭をきり,法学教育の改革を唱えた。自由法論はまた裁判官内部の改革運動に波及している。自由法論は,法の無欠缺性を認めず,法の合目的的な運用,法解釈学の実践的性格,裁判官の法創造的機能を強調した。この運動は,科学主義を標榜ひようぼう)しており,当時なお市民権を得ていなかった社会学を導入し,法社会学の領域を開拓したことは注目される。エールリヒは〈生ける法〉を経験科学的に探求することによって,ドイツに〈法社会学〉を誕生させた。他方でまたヘックPhilipp von Heck(1858-1943)の〈利益法学〉にみられるように,法の解釈学自体に新生面を開いたものもあり,自由法論は多彩な方向をはらんでいたといえる。

 フランスでは,ナポレオン法典が早く(1804)に成立した関係もあり,成文法唯一の法源とみなし,その厳密な適用を求める注釈学派が長く支配していた。この傾向に対してサレイユジェニーらの科学学派が行った批判の運動も,ドイツの自由法論とつながりをもっていた。
概念法学
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百科事典マイペディア 「自由法論」の意味・わかりやすい解説

自由法論【じゆうほうろん】

自由法運動とも。概念法学や法律の形式主義に反対する法思想。19世紀末―20世紀初めに流行した。成文法に固執せず,社会のなかで流動する〈生きた法〉の探究,裁判官の法創造機能を強調する。概念法学の空虚な形式論理至上主義を反省させ法社会学への道を開く。一方〈感情法学〉と批評されたように法概念の厳密性を失い,解釈が主観的になった。フランスのF.ジェニー,オーストリアのE.エールリヒ,ドイツのH.カントロビチが代表。
→関連項目イェーリングサレイユ法解釈学牧野英一

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「自由法論」の意味・わかりやすい解説

自由法論
じゆうほうろん
Freirechtslehre

19世紀末から 20世紀初頭にかけて,ドイツおよびフランスで主張された一種の法学改革論。制定法の厳格な解釈,適用に専念していた 19世紀の支配的な法学を「概念法学」として批判し,判決の具体的妥当性を保障するために,裁判官の法創造の役割を強調した。自由法論という呼称は H.カントロビッチが名づけたものであるが,その自由とは制定法からの自由を意味する。この理論のにない手としては,ドイツの R.イエーリング,フランスの F.ジェニー,オーストリアの E.エールリヒらが有名である。伝統的法学の硬化に反省の機会を与え,法社会学への機運を醸成する重要な役割を果したが,他方では感情法学といった批判も加えられた。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「自由法論」の意味・わかりやすい解説

自由法論
じゆうほうろん

自由法運動を基礎づける法学の一学派。自由法学ともいう。

[編集部]

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世界大百科事典(旧版)内の自由法論の言及

【慣習法】より

…ところが19世紀後半における資本主義の飛躍的発達とこれにともなう社会問題の激化を背景に,同世紀末から20世紀初めにかけ慣習法の再認識が行われる。法を国家権力の単なる命令としてとらえず,共同の意識に基礎づけようとするギールケらの立場や,国家法から独立している自由な法によって制定法の不備や欠缺(けんけつ)を埋めなければならないとする自由法運動(自由法論)がそれである。こうした動きに対応して,ドイツ民法典(1900)は,第1草案(1887)が慣習法を基本的に否認しようとしていたのに反し,慣習法について明文の規定をおかず,学説にこれを委ねた。…

※「自由法論」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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