改訂新版 世界大百科事典 「ジェ」の意味・わかりやすい解説
ジェ
Gê
ブラジルの先住民集団。北はマラニョン州から南はサンタ・カタリナ州までの広い範囲に散在し,総数は約4万人(1990)と思われる。ジェ語族と分類されている言語を話す部族の総称で,北,南,中央の三つに大きく分けられる。北にはカヤポ,スヤ,アピナイェなど,中央にはシャバンテ,シェレンテ,南にはカインガン,ショクレンが含まれている。また,マト・グロッソ州のボロロもジェと近縁である。ジェの住む地域は,川沿いの森とその外に広がるサバンナによって特徴づけられている。生業は焼畑耕作と野生食物の採集,狩猟,漁労を組み合わせたものである。かつて非常に重要であった狩猟は獲物が少なくなった現在ではその価値を減じ,経済活動における焼畑耕作の比重が高まっている。衣服はほとんど身につけず,土器も作らない。ジェの特徴は,このような脆弱な経済基盤と貧弱な物質文化にもかかわらず,社会が複雑に組織化されていることである。村は円形または三日月形で,家の列が大きな広場をとりまく形をしている。この広場は儀礼のための場であり,男の領域である。ここには男の集会所が建てられる。家は女性の領域であり,結婚した花婿は妻の家へ入る。村はまた,儀礼の場や材木かつぎレースなどで二つに分けられ,政争においても二つに割れることが多い。このような男と女の二分,儀礼的な半族(双分組織)への分割,政争における分裂においてみられる二分法が,ジェ諸部族に共通してみられる基本的な考え方である。ブラジル社会との接触に伴って各部族とも大きな社会変化をこうむり,南ジェにおいてその程度が最も進んでいる。現在のジェは,大部分がキリスト教宣教所や国立インディオ局の出張所の近くに住み,その影響下にあるが,部族の基本的な特徴はまだ保っている。とはいえ,独自の文化を保つには難しい段階に入っているのは確かであり,土地をめぐって周囲のブラジル人との摩擦が多くなっている。
執筆者:木村 秀雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報