改訂新版 世界大百科事典 「双分組織」の意味・わかりやすい解説
双分組織 (そうぶんそしき)
dual organization
一つの社会が二つの部分集団によって相互補完的に組織されている社会組織もしくはその状態をいう。通常,社会が二つのカテゴリー・氏族・リネージ・地域社会などからなる場合,それぞれの部分集団を〈半族moiety〉というので,〈双分組織〉は別名〈半族分割moiety division〉とも称する。〈moiety〉とはフランス語の〈moitié〉に由来する用語で,たんに二分割を意味している。各地の事例では,親族関係を密にする集団が社会を二分し,あるいは一方が他方の外婚集団になっていたりする場合もあるが,双方がおなじ出自集団であるとはかぎらず,また相互に密な親族関係をもっていることが〈双分組織〉の特徴であるとはかぎらない。
〈双分組織〉は社会の単なる観念上の二分割にとどまらず,双方の単位の間で社会的・宗教的になんらかの互酬的関係が見られる場合が多い。この互酬的関係のなかで顕著なものを挙げるならば,第1に,それぞれの単位が単系的外婚集団を形成しており,相互に配偶者のやりとりをするということ,第2に,それぞれが儀礼上の単位となっており,相互の互酬的行為を通じて儀礼を構成するということ,などが挙げられよう。ただし実際の例においては,上記二つの特徴をあわせもっている社会もあれば,いずれか一方の特徴しかもたないという社会もあり,さらに双分組織に対応するような二元論的宇宙観をともなった社会もあるというように多様である。
なお,先にいう〈半族〉と類似した概念として,古代ギリシアの政治・宗教的集団であるフラトリアphratriaを語源とする〈胞族phratry〉があるが,〈胞族〉は通常,氏族の単位よりも大きな類別上の単位であり,二つあるいはそれ以上の類別上の認識を基礎とした単位である。したがって〈胞族〉は,かならずしも社会を二分するような組織とはなりえず,通常は単なるカテゴリーとして存在しているが,氏族が連合して互酬的な社会の二分割組織を構成しようとすると,〈双分組織〉の単位となりうることもある。
執筆者:渡辺 欣雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報