ジャガイモ飢饉(読み)じゃがいもききん(その他表記)Famine of 1845-49
The Great Famine

改訂新版 世界大百科事典 「ジャガイモ飢饉」の意味・わかりやすい解説

ジャガイモ飢饉 (じゃがいもききん)
Famine of 1845-49
The Great Famine

アイルランドで,ジャガイモ疫病が原因で生じた大飢饉北アメリカから伝播したこの疫病はヨーロッパ各地でジャガイモの収穫を減少させたが,住民の3分の1以上がほとんどジャガイモだけを主食としていたアイルランドでは,疫病は貧農食物を奪うことになった。1845年9月から49年5月まで,47年を除いて疫病はジャガイモの凶作をもたらし,種いもまで食べつくしていっそうの減収を引き起こす,といった事態が続いた。しかし,穀類には影響がなく,この間にもイギリスへの食料輸出は続けられた。したがって住民による穀物輸出阻止の暴動もたびたび起こった。イギリス政府はアメリカから乾燥トウモロコシを10万ポンド(金額)緊急輸入し,学者に対策を検討させ,46年には穀物法を撤廃するなどの措置をとり,また,46年からは道路工事などの公共事業に難民を雇用し,47年にはスープ無料供給所を設置するなど種々の対策を試みた。しかし国勢調査によれば,1841年の人口は817万,51年の人口は655万で,大飢饉をはさんで162万人が減少したことになる。このうち100万人ほどは,飢餓または貧民収容所その他で感染した伝染病により死亡し,他は北アメリカなどへ移民したと推定されている。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ジャガイモ飢饉」の意味・わかりやすい解説

ジャガイモ飢饉
ジャガイモききん
Irish Potato Famine

1845~49年アイルランドで,葉枯病によるジャガイモの不作のために起こった飢饉。19世紀にヨーロッパで発生した最悪の飢饉となった。アイルランドでは 1840年代初めには人口の約半分が食事のほとんどをジャガイモのみに頼るようになっていた。葉枯病菌が北アメリカから持ち込まれた 1845年,アイルランドは例年になく気温が低く湿度が高かったため病原菌が繁殖し,その年の収穫の大部分は畑で腐ってしまった。続く 1846~49年にはさらに深刻な不作に見舞われ,収穫のほぼすべてが葉枯病で失われた。農民を救済する費用は,もっぱらアイルランドの地主が負担したが,農民が地代を払えなかったため,地主の資金もすぐに尽きた。アイルランドを支配下に置いていたイギリスによる支援は,融資,無料食堂の運営資金援助,道路建設などの公共工事を通じた雇用創出にかぎられていた。アメリカ合衆国から輸入されたコーンミールは,餓死を防ぐ一定の効果があったものの,アイルランド人の口に合わなかったうえ,かたよった食事が栄養失調を引き起こした。イギリス政府は救済措置に総計約 800万ポンドを費やした。飢饉の間も,アイルランドの農民は食料を買う金がなかったため,穀物や肉など上質の食料を国外に輸出し続けた。この飢饉を境にアイルランドの人口は大きく変化した。1844年に約 840万人だった人口が 1851年には 660万人に減少した。飢えや発疹チフス,その他飢えによる病気により,約 100万人が死亡した。この飢饉の間に他国に渡ったアイルランド移民は,推計 200万人に上る。

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旺文社世界史事典 三訂版 「ジャガイモ飢饉」の解説

ジャガイモ飢饉
ジャガイモききん

アイルランドで1845年9月から49年5月まで続いた大飢饉
人口の3分の1がジャガイモだけを主食とする貧農の多かったアイルランドでは,飢餓や貧民収容所における伝染病の流行で100万人におよぶ死者を出した。この間もイギリスへの穀物輸出や不在地主による土地の収奪が続いたために治安も悪化し,100万人をはるかに超える人々がアメリカを中心に移民した。50年間でアイルランドの人口はほぼ半減したと考えられている。

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世界大百科事典(旧版)内のジャガイモ飢饉の言及

【飢饉】より

…さらに,凶作による食物価格の騰貴は手工業製品の販路をせばめ,織物業の不振を招いて多くの失業者を出すなど,経済活動全体に直接的な影響を及ぼした。19世紀に入っても,ヨーロッパの後進地域では,なお深刻な飢饉がみられ,例えば1846‐47年アイルランドを襲った〈ジャガイモ飢饉〉では,餓死者が100万を超えたという。 凶作・飢饉は,しばしば民衆の食糧蜂起を引き起こした。…

※「ジャガイモ飢饉」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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