生体は,生命維持に必要なエネルギーを食物の摂取によって得ているが,なんらかの理由で持続的に摂取エネルギーが不足すると,自身の組織構成成分が漸次分解され,体重が減少する。このような状態を飢餓hunger(starvation)といい,それによる死を飢餓死または餓死という。飢餓には食物をまったく摂取しない完全飢餓(水だけ摂取する場合を含む)と栄養の不足または失調による不完全飢餓があり,完全飢餓では,初期のエネルギー補給は筋肉や肝臓に蓄えられているグリコーゲンで行われるが,グリコーゲン消費後も脂肪によって持続的なエネルギーの補給が行われ,ついにはタンパク質も分解される。最初の1,2日著しい空腹感があるが,その後この症状は消え,口渇,胃部圧迫感,めまいを訴え,皮膚は乾燥状で両眼は陥没,舌も乾燥状で赤変し,アセトン臭を発し,体力も精神機能も衰え,せん妄,幻覚がおこり,昏睡に陥り自家中毒,アシドーシス,脱水症などが原因で死亡する。食物も水も摂取しなければ幼児は5~7日,成人は1~2週間で死亡し,水だけ摂取すれば30~40日くらい生存する。なお,寒冷は飢餓による死期を早め,老人は幼少児より飢餓に長く耐えられる。不完全飢餓では,食物の摂取状況によって死亡までの期間は一定せず,末期に浮腫を伴う。
執筆者:若杉 長英
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
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