日本大百科全書(ニッポニカ) 「ルサージュ」の意味・わかりやすい解説
ルサージュ
るさーじゅ
Alain-René Lesage
(1668―1747)
フランスの劇作家、作家。ブルターニュ地方のサルゾーに生まれる。地元のイエズス会系の学校を経て、1690年にパリに出た。彼の文学上の出発は、スペイン文学の翻案だった。ウルタド・デ・メンドーサHurtado de Mendozaの作品を下敷きにした劇作『主人と張り合うクリスパン』(1707)が出世作となり、ついで発表した喜劇『チュルカレ』(1709)は大当りをとった。スペイン文学から想を得て、劇作と同じく、小説にも意欲を示し、風俗小説『跛の悪魔』(1707)を書き、いちおうの成功を収めた。
しかし今日ルサージュの名を不朽にしているのは長編小説『ジル・ブラース物語』全四巻(1715~35刊)である。小説の枠組みは、スペインの悪者(ピカレスク)小説から借りているが、主人公ジル・ブラースが人生の途上で遭遇するさまざまな事件、数度に及ぶ転職などを通して、彼の人間的成長を克明に描いた点で後の教養小説とつながる面をもつ作品と考えられる。
[市川慎一]
『鈴木力衛訳『チュルカレ』(『世界文学大系30』所収・1963・筑摩書房)』▽『中川信訳『悪魔アスモデ』(『世界文学全集6 悪漢小説集』所収・1979・集英社)』