日本大百科全書(ニッポニカ) 「スクレーパー」の意味・わかりやすい解説
スクレーパー(石器)
すくれーぱー
scraper
掻(か)き取ったり、削り取ったりする道具(石器)の総称。世界各地に認められる。掻器(そうき)end-scraperと削器(さっき)side-scraperの二つに区分することができる。掻器は、石刃(せきじん)bladeまたは剥片(はくへん)flakeの端部に二次的な調整剥離(はくり)を規則的、連続的に加え、円弧状の刃部形態をつくりだした石器である。刃部は45度前後以上の分厚い断面をなすものが多い。削器は、石刃または剥片の側縁部に二次的な調整剥離を加えた石器で、刃部断面形は概して掻器のそれよりも薄い。
掻器・削器ともに後期旧石器時代(約3万5000~1万2000年前)においてもっともよく発達し、多様な形態が製作された。これは世界的に共通していえることであり、この時代には両者の違いも技法的にはっきりしていた。しかし石器のなかでもスクレーパーは、使用による形態の変形が激しい器種である。そのため形態の違いが、時代の差ではなく、使用による変形の程度の反映であることがあるので注意を要する。やがて旧石器時代から中石器時代に移行するにしたがって、しだいに形態学的にも区別が不明確となり、新石器時代に入って両者の明確な区分は崩壊する。日本の場合も最初に土器づくりが始まったころ(縄文時代草創期)までは、一部で旧石器時代とほとんど変わらないような掻器・削器がつくられる。しかしそれ以降は典型的な掻器は消滅して、つまみ状の突起を一端に設けたスクレーパーが発達する。この形態は縄文時代に広く認められる。縄文時代以後、弥生(やよい)時代にもスクレーパーはあるが、型式学的な定型を保ったものは減少し、不定形なものが多くなる。
[小野 昭]