翻訳|tractor
牽引(けんいん)車の意味で,作業機などを引っ張って各種の作業をする動力車のことである。現在では単に作業機を引っ張るだけでなく,動力取出装置を通じて作業機に回転力を伝え,作業機を駆動して複雑なしごとをさせる移動動力源としての意味が大きい。農業用,林業用,工業用,軍用などの区別があるが,数のうえでは農業用が中心である。
トラクターには車輪式のものと履帯式(キャタピラ式)のものがある。車輪式は道路でも走れ,しかも高速運転に適している。キャタピラ式のものは軟弱地,不整地でも走行でき,牽引力が大きい特徴がある。農業用の車輪型で2輪のものは,耕耘機あるいはガーデントラクターと呼ばれ,運転者があとをついて歩く歩行用トラクターである。4輪トラクターは乗用であって,後輪だけを駆動する型のものと,4輪駆動のものとがある。4輪駆動は,水田や不整地の走行に適している。
トラクターは車体,エンジン,動力伝達装置,走行装置,かじ取り装置,牽引装置および動力取出装置からなっている。すなわち,多くはディーゼルエンジンを搭載し,その出力を変速装置,伝動装置を通じて伝えて車輪を駆動し,牽引力を発生させて作業機を引っ張って作業したり,動力取出装置を通じて作業機の回転部分を動かす。トレーラーのように重い作業機は牽引桿(かん)につけて引っ張るが,通常の作業機は3点リンクヒッチを介してトラクターに連結され,油圧装置によって作業機を上げ下げする。大きなトラクターでは,作業機の位置やしごとの状態を一定にするための自動制御機構をそなえている。
トラクターは19世紀の半ばに牛馬に代わるものとして使われ始めた。初めは蒸気機関と大きな鉄車輪をそなえて,耕地で間欠的に動きながらケーブル耕耘をしたり,半ば定置で脱穀作業に使われたりした。20世紀に入って内燃機関が発達すると,軽いエンジンをのせたトラクターが作られるようになり,本来の牽引作業に使われるようになった。とくにゴム車輪をつけたトラクターの出現によって機動性が高まり,路上の運搬やいろいろな圃場(ほじよう)作業に使われるようになった。現在では家庭菜園などに使われる歩行用の2~3馬力程度のものから,外国の大規模農業では700馬力をこえる大きなものまで使われている。
執筆者:木谷 収
一般路上で貨物輸送用トレーラーを牽引するもので,フルトレーラー用トラクターとセミトレーラー用トラクターに分けることができる。前者は,普通トラックのフレーム後部に牽引用フックが取り付けられる以外は,普通トラックと変わるところはない。後者のセミトレーラー用トラクターは,牽引専用車両で,運動性能向上のため極力ホイールベースが短く設計され,ほぼ後車軸の上部にトレーラーを接続する第5輪が取り付けられる。また高速道路網整備にともなう高速大量輸送に対応し,大出力エンジンを搭載し多段変速機をもつことなどが特徴である。
→トラック
執筆者:中谷 弘能
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
牽引(けんいん)車両のことをいう。農業用、建設用などがあるが、本項では、おもに農業用トラクターについて述べる。
農業用トラクターは、作業機を装着して牽引したり、駆動しながら作業を行う。現在のような4輪トラクターは1917年にヘンリー・フォードによって製造され、その後、作業機を駆動するための動力取出し軸(PTO軸)、ディーゼル機関の搭載、空気タイヤの装着、作業機を取り付ける3点リンク機構が装備され、機構的、構造的に本格的なトラクターとなった。その性能・機能は、エンジンの防振対策、前方視野の改善、各種作業に適応するための多段変速化や自動変速機構、前後進の切替えのできるシャトル変速機構等の採用と、時代とともに向上している。
日本では大正末期ごろに外国製のトラクターが導入されたが、北海道での開墾などに利用されただけであった。第二次世界大戦後、1950年(昭和25)ごろから歩行型トラクターが国産化され、急速に普及した。1960年ごろから、農業従事者の他産業への流出により、能率の高い乗用型の4輪トラクターの普及をみた。
農業用トラクターの種類は、走行装置によって、車輪式(ホイール式トラクター)、装軌式(クローラー式トラクター。キャタピラー式ともいう)、半装軌式(セミクローラー式トラクター)に分けられる。車輪式は機動性に富み、もっとも普及している方式である。一般に歩行型トラクターは耕うん機とよばれ、乗用型トラクターがトラクターとよばれている。
トラクターには後輪だけを駆動する2輪駆動トラクターと、前後輪とも駆動する4輪駆動トラクターとがあり、4輪駆動がもっとも多く使用されている。装軌式トラクターは、牽引出力が大きいこと、接地圧が低いことにより、深耕用プラウの作業や柔軟地での作業に利用されている。半装軌式トラクターは4輪駆動式トラクターの後輪部分をクローラーにしたもので、湿田等での走行性改善のために使用されている。
特殊なトラクターには、重心位置が低く転倒しにくい傾斜用トラクター、トラクターとトラックの中間的構造をしたツールキャリアーなどがある。
作業安全の面では、トラクターの転倒事故に際しオペレーターの死傷を防ぐ重要な手段として、安全キャブ(運転室)や安全フレームの装着がある。いずれもトラクターに適合した製品を選択し、装着することが重要である。安全キャブには転倒事故による死傷防止に加え、防音、防振、雨よけ、防寒、防暑、防塵等により、オペレーターの快適作業を可能にする効果もある。
なお、農業用以外のトラクターには、建設用のブルドーザー、ホイールローダー等があり、特殊なものでは空港で航空機を牽引するトーイングトラクターなどもある。
[八木 茂]
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…営農作業は整地耕耘(こううん)作業から,収穫調製作業などまで数段階に及ぶため,機械の種類が多い。用途別にみると,整地耕耘用機械(装輪式トラクター,動力耕耘機など),栽培用機械(田植機,野菜苗移植機など),管理用機械(噴霧機,散粉機など),収穫調製用機械(稲麦刈取機,刈払機,コンバイン,脱穀機,籾すり機,乾燥機など),飼料用機械(飼料さい断機など),穀物処理機械(精米麦機,製粉機械,製めん機など),製茶用機械などがある。日本の1997年の農業機械の生産額は6024億円で,そのうち装輪式トラクター(2194億円),動力耕耘機(318億円),田植機(532億円),コンバイン(1526億円)などの占める割合が高い(通産省〈生産動態統計〉による)。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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