日本大百科全書(ニッポニカ) 「スタインマン」の意味・わかりやすい解説
スタインマン
すたいんまん
Ralph Marvin Steinman
(1943―2011)
生理学者(免疫学・細胞生物学)。カナダのモントリオールに生まれ、おもにアメリカ合衆国で活躍。ハーバード大学で博士号取得。ロックフェラー大学教授、同大学免疫学・免疫病センター所長などを務めた。2011年に「樹状細胞と獲得免疫におけるその役割の発見」の業績によりノーベル医学生理学賞を受賞した。
免疫には、生まれながらにして保有する免疫(自然免疫)と、いろいろな抗原にさらされて後天的に獲得する免疫(獲得免疫)とがある。人間の免疫機構では、外から体内に侵入してきたウイルスや病原細菌などを白血球のT細胞が認識してB細胞に抗体を作製させている。この抗体や別の免疫細胞を働かせて病原体を排除しており、これが獲得免疫の機構とされてきた。B細胞は、同じ抗体をいつでも作製できるように記憶しており、T細胞はこの獲得免疫の司令塔の役割をしていると考えられていた。
1973年、スタインマンは新たな免疫細胞を発見し「樹状細胞」と名づけた。この樹状細胞は、その後の研究から皮膚など全身に存在し、ウイルスや細菌が侵入するとこれを探知して仲間をよび集め、細菌やウイルスを攻撃することが判明。フランスの生物学者ジュール・ホフマンは、ショウジョウバエを用いた実験によって、ある遺伝子(Toll(トール)遺伝子とよばれる)がカビの感染を防御していることを発見。またアメリカの生理学者ブルース・ボイトラーは、ヒトやマウスの樹状細胞にも同様の遺伝子があり、それをもとに作製されるタンパク質が病原体を探知するセンサーの役割をしていることも発見した。樹状細胞の発見と研究は、自然免疫とよばれることになる新しい免疫機構の究明に寄与した。また、これらの研究成果から、獲得免疫機構においてT細胞に抗体作製の指令を出しているのは樹状細胞であることもわかってきた。スタインマン、ボイトラー、ホフマンらによって免疫のメカニズムが明らかにされ、免疫療法などの分野への可能性が広がった。ホフマンとボイトラーも「自然免疫の活性化に関する発見」で、ともにノーベル医学生理学賞を受賞している。
なお、スタインマンは、ノーベル賞受賞発表の3日前の2011年9月30日に死亡しており、ノーベル賞は故人には授与しないとするノーベル財団の内規があるが、カロリンスカ研究所のノーベル生理学医学賞選考委員会は、授賞決定時に死去を知らなかったとの理由で授与することに決定した。
[馬場錬成]