日本大百科全書(ニッポニカ) 「トール」の意味・わかりやすい解説
トール
とーる
Thórr
北欧神話の神。オーディンとともによく知られ、『エッダ』ではオーディンの子とされる。妻はシブ。スルーズヘイムに住み、投げればかならず敵を倒す槌(つち)ミョルニルと、力を倍にする力帯、その槌の柄(え)を握るための鉄の手袋を武器にもつ。巨人族から神々と人間を守るアサ神族随一の怪力の持ち主で、エッダ神話には、巨人スリムのところでの槌を取り戻す話や、巨人ヒミルとの大蛇釣り、巨人ゲイルロズ退治、巨人ウートガルザロキの国への遠征の話などが数多く語られている。世界の終末にはミドガルドの大蛇を倒すが、その毒によって自らも命を落とす。雷神、農民の神であるこの神が広くゲルマン全域で崇拝されていたことは、地名や人名からもうかがえる。
[谷口幸男]