果樹を対象にした走行式防除機をいう。送風機をもち、その吐き出し口に配置したノズルから薬剤を噴霧し、液滴は送風機の空気流によって細粒化され、また搬送されて対象作物に吹き付けられる。
スピードスプレーヤーの主要部はエンジン、ポンプ、送風機、薬液タンクからなり、自走式、牽引(けんいん)式、搭載式の3種類に分類される。自走式はもっとも一般的な形式で、自走車台に各部を配置したもので、牽引式は、被牽引車台にすべてを搭載してトラクターで牽引する形式のものである。搭載式は、薬液タンクのみを牽引し、そのほかの部分はトラクターに搭載して使用されるものをいう。スピードスプレーヤーは1956年(昭和31)に初めてアメリカより北海道の民有園に導入され、翌1957年から国産化されて主要リンゴ産地に導入された。これらのものは牽引式であったが、その後、面積が小さく、枕地(まくらじ)(機械の回転に必要な空地)が狭いのに加えて傾斜地が多い日本の果樹園に使いやすい自走式のものが発達し、数年を経ずして牽引式と交代した。
スピードスプレーヤーは、それまでもっとも能率的な方法であった固定配管による防除法に比べて5分の1から10分の1の労力で行えるうえに、ほぼ同等な防除効果が得られることから急速に普及し、急傾斜地にあるミカン園を除いてほとんどの果樹に使用されるようになった。
その後、その走行性能は、傾斜地、狭い園地に対して向上がみられ、園地の整備による急傾斜の解消もあり、2000年代には、すべての果樹の防除について中心的役割を果たすようになった。また、散布農薬、転倒、樹への衝突などから運転者を防護するための密閉キャビンが設けられているものもある。しかし、スピードスプレーヤーには、その散布機構から、隣接する他作物や住宅等に散布薬液が漂流して薬害を発生する危険があり、対象果樹に対するノズルの配置、散布圧力を適切にするなどの配慮が必要である。
[平田孝三]
リンゴ,ナシ,ブドウなどの果樹園において,樹間の通路を走行しながら薬液を散布するのに使われる防除機。果樹園の防除作業は,果樹の丈が高く,範囲も広いため重労働である。その労力を軽減し防除効果を上げるため,効率よく使用できる走行連続散布式大容量防除機としてスピードスプレーヤー(略してSSともいう)が開発された。アメリカを中心に発達し,1954年に日本へ輸入され,現在では果樹園で広く利用されている。スピードスプレーヤーの構造は,薬液タンク,ポンプ,ノズルなどの送液装置,送風機,導風板などの送風装置,台車,車輪などの走行装置およびエンジンよりなっている。ポンプにより加圧された薬液剤はノズルから噴霧され,送風機からの高速気流で液滴をさらに微粒化するとともに,風のエネルギーによって噴霧粒子を樹葉空間内の奥深く吹き込む。ノズルは送風機の噴頭に多数配置され,液滴粒は扇形に飛散する。スピードスプレーヤーには牽引式と自走式があり,薬液タンクの容量は500~2000lのものがある。
執筆者:岡本 嗣男
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