日本大百科全書(ニッポニカ) 「ソトイワシ」の意味・わかりやすい解説
ソトイワシ
そといわし / 外鰯
bonefish
[学] Albula sp.
硬骨魚綱ソトイワシ目ソトイワシ科に属する海水魚。日本では山陰地方以南の日本海沿岸、千葉県以南の太平洋沿岸、屋久島(やくしま)、南西諸島近海に分布しているが、他の海域の種との関係は不明のため、ここでは日本産種について解説する。
以前は世界の熱帯の浅海域に単一の種としてAlbula vulpesが広く分布していると信じられていた。しかし最近の研究では、この種は形態がよく似ているいくつかの遺伝的に異なる種の複合種であることが判明した。そのうち西中部太平洋には2種いることが知られているが、外部形態がほとんど同じであり、同じ海域にすんでいるので、これらを区別することはきわめて困難であるとされている。日本で採集された標本を調査した日本の魚類学者ら(2008)は日本産種の学名にA. argenteaをあてるのが妥当であるとしたが、この種は、フィリピン以南に分布していること、側線鱗(そくせんりん)数がやや少ないこと、脊椎(せきつい)骨数が少ないことなどで、日本産種とは一致しないとされた。したがって、2018年(平成30)時点では日本産種の学名をAlbula sp.としている(属名+「sp.」は、種小名が未決定または不明の場合の表記方法)。
本種の体は円筒状で、わずかに側扁(そくへん)する。吻(ふん)は下顎(かがく)の前端を越えて突出する。目は大きく、脂瞼(しけん)がある。口は小さく、頭の下面に開き、上顎の後端は目の前縁に達しない。下顎の中央前部に小さな喉板(こうばん)がある。鰓条骨(さいじょうこつ)は10~15本。鰓耙(さいは)は退化的で、小さな絨毛(じゅうもう)状の歯帯になる。鱗(うろこ)は小さく、側線鱗数は60~80枚。背びれは体のほぼ中央に位置し、16~17条。臀(しり)びれは7~8条で尾柄(びへい)近くにある。胸びれは下位に、腹びれは背びれの後部下方に位置する。尾びれは深く二叉(にさ)する。背部は青緑色で、しばしば数本の薄い暗色のかすかな鞍状斑(あんじょうはん)がある。各鱗列に沿って暗色縦帯が走る。腹部は銀白色を帯びる。沿岸の砂・泥底にすみ、砂や泥の中に隠れている甲殻類、小さい無脊椎(むせきつい)動物、小魚などを掘り出して食べる。非常に浅所で捕食するときに、尾びれを水中から出すことがある。この習性はテーリングtailing(尾を出すこと)として知られている。小さな群れで沿岸域を活発に回遊し、沖合いで産卵する。仔魚(しぎょ)は透明で、尾びれが二叉するレプトセファルス(葉形(ようけい)幼生)期を経る。最大全長は1メートルほどになる。有名なスポーツフィッシングの対象魚であり、さまざまなルアーを用いて釣られ、強くて、長時間の引きが喜ばれる。たくさんの小骨があるが、肉は上質である。おもに刺網(さしあみ)で漁獲される。マルクチソトイワシA. glossodontaに似ているが、本種は上顎長が長く、頭長の3分の1以上あること、下顎の先端がとがること、副蝶形骨(ふくちょうけいこつ)(頭蓋(とうがい)床を構成する骨で、最前端の鋤骨(じょこつ)の直後にある骨)の前端は中翼状骨の前端と同じ位置にあることなどで区別できる。
[浅野博利・尼岡邦夫 2019年2月18日]