日本大百科全書(ニッポニカ) 「タタルカ」の意味・わかりやすい解説
タタルカ
たたるか
Dominik Tatarka
(1913―1989)
チェコスロバキアの作家。スロバキア北西部の農村出身で、プラハのカレル大学卒業後パリ大学に留学。心理主義的・超現実主義的な作品で文壇に登場した。
第二次世界大戦中はナチスの圧制に抵抗し、左翼的傾向を強め、1944年のスロバキア国民蜂起に参加。戦後まもなく発表された『聖職者の共和国』(1948)は、ナチスの傀儡(かいらい)であったスロバキア国の内情を風刺的に描いたものとしてとくに有名。さらに長編『第一撃と第二撃』(1950)で、パルチザン闘争の時代と独立後の社会改革の動きを作品化した。その後アレゴリー(寓意(ぐうい)物語)的な『同意の悪魔』(1956)やエッセイ集『終わりなき対話』(1959)などにより、社会主義リアリズムや「個人崇拝」の時代を批判。1968年の「プラハの春」圧殺後はソ連流社会主義の「正常化」に反対し、1970年からは警察の監視下に置かれ、国内での公認の作家活動を禁じられた。そのため、作品の発表は非公認のサミズダート(自主出版)や国外での出版に頼らざるをえなかったが、内面的な告白を中心としたエッセイ集『書き下ろし』(1979)や『永遠への手紙』(1988)、テープ録音で持ち出されケルンで出版された『語り下ろし』(1988)などがある。「憲章77」の署名者でもあり、スロバキアにおける反体制文学の代表者とみなされた。なお、その作品はチェコのノーベル賞詩人にちなむヤロスラフ・サイフェルト賞の第1回受賞対象(1986)となった。
[飯島 周]