知恵蔵 「タワーマンション節税」の解説
タワーマンション節税
タワーマンション節税は、2015年1月から適用された相続税の改正をきっかけに広まった。改正前には相続税の基礎控除額は、5千万円に加えて1千万円に法定相続人の数をかけた額だった。これが改定後は引き下げられ、3千万円に加えて600万円に法定相続人の数をかけた額を超えると相続税の申告が必要となった。法定相続人が3人であれば、改定前には総額8千万円だった基礎控除が、改定後には4800万円となった。このため、相続税の申告割合は改正前には全体の4%程度に過ぎなかったのが、改正後には6%ほどに拡大した。富裕層でなくとも、大都市圏に戸建ての家を持っているだけで相続税が課されるケースもあるため、これまで相続税対策とはほとんど無縁だった層も関心を持つようになった。また、控除後の税率は相続人が取得する金額に応じた累進制だが、改定後は金額の幅が細分化され、取得金額2億円超3億円以下で45%、6億円超では55%とそれぞれ従来より5%の引き上げになった。
土地についての評価額は路線価などで算定するため、一般に預貯金や有価証券などよりもはるかに低い金額が適用される。ことに高層マンションでは、限られた敷地に多数の区分所有者がいるため、1戸当たりの所有する土地はごくわずかである。また、国税当局は相続税の評価方法として、建物の固定資産税額を採用する。固定資産税は同一の建物であれば専有面積に応じて一律だ。ところが、実勢のタワーマンション売買価格は高層階の部屋ほど高くなっている。このため、タワーマンションの高層階を購入し、相続してから大きな値下がりなく売却できれば、相続時の資産の額面を大幅に圧縮できる。更に、マンション購入に当たって借り入れをすれば、借り入れは額面通りの負債として課税額を減らすことができる。また、タワーマンションの売買価格は1戸当たり数億円以下であるため、相続する資産の程度に応じて調整がしやすいなどとして、節税対策として不動産コンサルタントや金融機関などが喧伝(けんでん)する。
ただし、相続財産の評価方法については、それが著しく不適当なら国税庁長官の指示を受けて別途適切に評価するという規定がある。東京国税局管内でも、判断能力のない父親の名義で、その死の1カ月前にタワーマンションの30階の1室を約3億円で購入した件について追徴課税がなされた。このケースでは、マンションの財産としての評価は購入価格の2割、約6千万円として相続税を申告、4カ月後には購入額とほぼ同額で売却したというもの。相続人は国税不服審判所に取り消しを求めたが、16年2月に否認された。こうした租税回避のような手法の登場を踏まえ、国税庁は行き過ぎた節税への対応を指示すると共に、総務省などと共に不公平にならないような補正の導入を検討している。
(金谷俊秀 ライター/2016年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報