日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
チェンマイ・イニシアティブ
ちぇんまいいにしあてぃぶ
Chiang Mai Initiative
1997年のアジア通貨危機を教訓に、二度と危機を再発させないために、ASEAN+3(ASEAN諸国に日本、中国、韓国を加えた枠組み)が地域協力の一環として、推進している金融協力の一つ。略称CMI。アジア通貨危機は、巨額なグローバル資本移動のなかでアジアが投機アタックの対象になり、巨額なアジア通貨の売り浴びせによって外貨準備が枯渇し、通貨が暴落した「資本収支危機」であったとの認識にたって、それに対抗するため、地域全体としてセーフティネットが構築されつつある。その概要は、世界全体の外貨準備6.7兆ドル(2008年末)の半分超を保有するアジア各国が協力し、外国資本の逆流にみまわれたメンバー国に外貨の融通をすべく、スワップ協定を締結するというものである。
2000年5月のチェンマイでのASEAN+3の財務大臣会議では、CMIに基づき、必要に応じて相手側が保有する外貨(主としてドル)を自国通貨との交換により、一定期間融通してもらうというスワップ協定を締結し、域内にそのネットワークを構築することが決まった。また、2003年末に、総額365億ドル規模のネットワークがいちおうの完成をみたが、その後さらに改善・強化がなされてきた。その主な論点は、規模の拡大、意思決定の迅速化・機動的発動、モラルハザード問題への対応である。
まず、スワップ協定の規模は、増額が図られ、800億ドルにまで拡大をみた。しかし、スワップ協定は2国間取極めであるため、意思決定にはそれぞれ個別協議を必要としたが、これが集団意思決定方式に改善された。また、無条件のスワップによる融資は、借入国のモラルハザードを助長しかねないため、当初は10%が無条件で、残りは国際通貨基金(IMF)プログラムとリンク(IMFの融資支援が得られる状況にある、という条件が付されている)されていたが、無条件部分が20%に引き上げられた。さらに、IMFプログラムとのリンクも、急激な外貨流動性不足への対応にとって足枷(あしかせ)になりかねないことから、ASEAN+3では、危機の予防策として独自の「経済サーベイランス」(メンバー国同士で相互に経済運営を監視し合い、適切な助言や協調をすること)を強化するとともに、それを融資の事前審査due diligenceとして、CMIと統合することとした。
さらに、2008年の世界金融危機を受けて、その流れは大きく前進をみた。2009年5月のバリでの財務大臣会議において、その規模は1200億ドルに引き上げられるとともに、日本(384億ドル)、中国(香港(ホンコン)分を含めて、384億ドル)など、各国の資金枠が決定され、かつ各国の最大借入可能額も明確にされた。これまでの二国間取極めから、1本の契約によって多国間で規定されるというマルチ化の枠組みが形成され、貸出しに関する決定は多数決によってなされることとなった。さらに、その意思決定の一助とするための独立した経済サーベイランスユニットの早期設立、域内の専門家からなるアドバイザーパネルの設置なども合意された。
このようにして、通貨危機後のアジアの通貨・金融協力のなかで、CMIはもっとも大きな成果をあげていると評価できる。
[中條誠一]