改訂新版 世界大百科事典 「ツレサギソウ」の意味・わかりやすい解説
ツレサギソウ
Platanthera japonica(Thunb.) Lindl.
日本の低山の草地に散見するラン科の地生ラン。強い香りがある。根茎および塊根はあまり肥厚せず,横走する。茎はこの属ではやや高く,35~60cm。葉は5~7枚が互生する。下部の4~6枚の葉はほぼ同大で楕円形,長さ10~16cm。5~6月,乳白色の花を10数花,やや密につける。花は径約1.5cm。背萼片と花弁はかぶと状。側萼片は後方に開出し,唇弁はぶら下がる。長さ3~4cmの比較的長い距がある。北海道から九州までの日本各地,さらに中国,ネパールに分布する。
ツレサギソウ属Platantheraは,紡錘形で先端のとがった塊根,裸出した粘着体,分裂しない柱頭などで特徴づけられ,北半球の温帯に約100種ある。花はおもに緑色または白色で,細長い距をもち,夜に香りが強まり,温帯の鱗翅(りんし)目昆虫,とくにガの訪花送粉に適応して分化した群と考えられる。広義のツレサギソウ属にはトンボソウ属が含まれる。日本には21種あり,日本の地生ランの中で最大のグループである。最もよく見かけるのはヤマサギソウP.mandarinorum Reichb.f.var.brachycentron(Fr.et Sav.) Koidz.,キソチドリP.ophrydioides Fr.Schm.の群で,普通,葉は1枚,淡緑色の花,先端の伸長した花弁で特徴づけられ,日本全国で多様に分化している。ホソバノキソチドリP.tipuloides Lindl.の群は花の黄色味が強く,亜高山帯の湿原に群生する。そのほか,ブナ帯の林床にジンバイソウP.florenti Fr.et Sav.,低山の林床にオオバノトンボソウP.minor(Miq.) Reichb.f.(ノヤマトンボ),湿原に花の白いミズチドリP.hologlottis Maxim.などが比較的多くみられる種類である。
執筆者:井上 健
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報