ツワイク(読み)つわいく(英語表記)Stefan Zweig

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ツワイク」の意味・わかりやすい解説

ツワイク(Stefan Zweig)
つわいく
Stefan Zweig
(1881―1942)

オーストリアの小説家。富裕なユダヤ人の子としてウィーンに生まれる。新ロマン主義の影響を受け、20歳のとき詩集『銀の弦(げん)』(1901)で文壇に登場。世界各地を旅行し、ベルハーレン、ロマン・ロランなど著名な同時代人と親交を結び、人道的平和主義の立場からすでに第一次世界大戦中、反戦運動に加わる。創作活動は叙情詩、戯曲、小説、評論と多岐にわたるが、なかでも『心の焦燥』(1938)など異常な状況下の人間の心のひだフロイトの精神分析風に追究した多数の心理小説および『フーシェ』(1929)、『マリー・アントワネット』(1932)、『エラスムスの勝利と悲劇』(1934)など感情移入の才がみごとに発揮された伝記小説は、世界中に愛読者を獲得する。また、フランス象徴派詩人の翻訳や『三人の巨匠』(1920)、『ロマン・ロラン』(1921)、『三人の自伝作家』(1928)、『バルザック』(1946)などの評伝によって外国文学の紹介に努める一方、情熱的な講演者としてしばしば聴衆を魅了する。ナチスの台頭後住み慣れたザルツブルクを去り、イギリスアメリカを経てブラジルに渡るが、作中人物に似て生来焦燥に駆られる多感な人であったこの「国際人」は、心のよりどころであるヨーロッパ文化の破壊を嘆き、亡命の孤独に耐えかねて若妻とともに自ら生命を絶つ。

[吉田正勝]

『『シュテファン・ツヴァイク全集』全21巻(1973~76・みすず書房)』『飯塚信雄著『ヨーロッパ教養世界の没落 シュテファン・ツヴァイクの思想と生涯』(1967・理想社)』


ツワイク(Arnold Zweig)
つわいく
Arnold Zweig
(1887―1968)

ドイツの小説家。シュレジアのグローガウ(現ポーランド領)に生まれる。芸術至上主義的な小説『クラウディアをめぐるノベレ』(1912)などで注目されたのち、第一次世界大戦の体験から連作『白人たちの大戦争』を生涯にわたって書き続けた。第一作『グリーシャ軍曹をめぐる争い』(1928)は無実のロシア人捕虜の処刑を扱い、「国家がすべてで、個人は虱(しらみ)のごときもの」という将軍に代表される戦争遂行者の残酷さを暴き、国際的反響をよぶ。そして三部作の予定が七巻に広がり(第七巻は未完)、大戦前夜から1918年の革命期までを描く。33年パレスチナに亡命するがシオニズムに失望。48年ベルリンに帰り、ドイツ民主共和国(旧東ドイツ)を代表する作家として活躍した。

[長橋芙美子]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ツワイク」の意味・わかりやすい解説

ツワイク
Zweig, Stefan

[生]1881.11.28. ウィーン
[没]1942.2.23. リオデジャネイロ近郊ペトロポリス
オーストリアのユダヤ系作家。富裕な織物工場主の子としてなに不自由ない少年時代を過し,高等学校時代から文才を発揮,20歳のとき詩集『銀の弦』 Silberne Saiten (1901) を発表して文壇に登場。ヨーロッパ各地を遍歴してフロイト,R.ロランらと親交を結んだ。ナチスに追われて 1934年イギリスに亡命,さらに 40年ブラジルに移住。暗黒の時代に絶望して若い妻とともにピストル自殺をとげた。フロイトの精神分析を援用した多数の伝記で知られる。バルザック,ディケンズ,ドストエフスキーを扱う『3人の巨匠』 Drei Meister (20) ,ヘルダーリーン,クライスト,ニーチェを扱う『魔神との戦い』 Der Kampf mit dem Dämon (25) ,『ジョゼフ・フーシェ』 Joseph Fouché (29) ,『マリー・アントアネット』 Marie Antoinette (32) ,『エラスムスの勝利と悲劇』 Triumph und Tragik des Erasmus von Rotterdam (35) など。その他,短編集『アモク』 Amok (22) ,『感情の混乱』 Verwirrung der Gefühle (27) ,戯曲『エレミア』 Jeremias (17) ,自伝『昨日の世界』 Die Welt von Gestern (42) などがある。

ツワイク
Zweig, Arnold

[生]1887.11.10. グローガウ
[没]1968.11.26. 東ベルリン(現ベルリン)
ドイツの作家。ユダヤ人の馬具商の家に生れる。大学在学中から創作,短編集『クラウディアをめぐる物語』 Die Novellen um Claudia (1912) で認められた。第1次世界大戦に従軍,戦場での体験はその後の作家生活に決定的な影響を与えた。また,ユダヤ民族統一運動を推進し,その思想は作品にも色濃く反映している。 1927年,膨大な連作『白人たちの大戦争』 Der grosse Krieg der weissen Männerの第1作『グリーシャ軍曹をめぐる争い』 Der Streit um den Sergeanten Grischaを発表,ドイツ兵士に革命思想を吹込んだかどで処刑されるロシア兵捕虜の運命を通じてドイツ軍国主義を弾劾。引続いて『1914年の若い女』 Junge Frau von 1914 (31) ,『ベルダンでの教育』 Erziehung vor Verdun (35) ,『国王の任命』 Einsetzung eines Königs (37) ,『砲火やむ』 Feuerpause (54) ,『機は熟す』 Die Zeit ist reif (58) の全6巻を完成。その間,33年ナチス台頭とともにパレスチナへ亡命,48年帰国,東ドイツ (当時) の文学の重鎮として活躍した。

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