新ロマン主義(読み)しんろまんしゅぎ(英語表記)Neuromantik ドイツ語

日本大百科全書(ニッポニカ) 「新ロマン主義」の意味・わかりやすい解説

新ロマン主義(ドイツ)
しんろまんしゅぎ
Neuromantik ドイツ語

20世紀初めドイツにおこった文芸思潮。決定論的な人間把握によって限界を示した自然主義克服する努力は、世紀末が近づくにつれていろいろな形で試みられ、自然主義の首唱者だったハウプトマン自身もいわゆる新ロマン主義への転向を遂げた。

 この名称は反合理主義、象徴主義のなかのロマン派伝統を新しく生かす志向に由来するが、超日常的な対象を探り、中世への憧憬(しょうけい)を吐露するという純粋にロマン派的な行き方は決定的な推進力とはならず、ヘッセフッフ長編など個々に優れた成果はみられるが、副次的な潮流にとどまった。

 むしろ新ロマン主義は、「神の死」を説いたニーチェの文明批判を背景に、主動的な心情復権を目ざす、世紀の転換期の文学の主たる傾向という広い意味に解されており、自然主義以後のドイツ文学の大勢を反映するものといえるが、そこにあまりに雑多な傾向が包括されていることは否めない。陶酔的な詩境のデーメルを先駆として、初期のホフマンスタールや、ゲオルゲリルケの両巨峰に至る叙情詩人の輩出がここでは特筆されよう。また、新ロマン主義を美術におけるユーゲント様式と並行関係にあるものとみる解釈もある。

高辻知義


新ロマン主義(日本)
しんろまんしゅぎ

19世紀西欧の世紀末芸術の影響を受けた、明治末の高踏的、享楽的、退廃的、異国情緒的、耽美(たんび)的、都会的な情調を重んじる芸術傾向をいう。文学史的には、『スバル』(1909~13)や『三田文学』(1910~25)といった雑誌を拠点に活躍したころの永井荷風(かふう)、谷崎潤一郎、北原白秋(はくしゅう)、吉井勇、木下杢太郎(もくたろう)らの文学をさす。彼らは『明星』(1900~08)のロマンチシズムを止揚し、また当時全盛の自然主義文学に反発し、パンの会を結成した。ここでの若い芸術家たちの活気に満ちた交流を背景に、新ロマン主義(耽美派ともいう)の文学が開花した。

[浅井 清]

『高田瑞穂著『近代耽美派』(1967・塙書房)』『野田宇太郎著『日本耽美派文学の誕生』(1975・河出書房新社)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「新ロマン主義」の意味・わかりやすい解説

新ロマン主義
しんロマンしゅぎ
Neuromantik

20世紀初めドイツに興った文学的傾向。自然主義の克服として現れ,象徴主義のうちのロマン派の伝統を生かそうと試みた。その行き方は個々の作家により多様である。ニーチェ,ワーグナー,フロイトの影響を強く受け,『沈鐘』 (1896) 以後の G.ハウプトマン,ホーフマンスタール,リルケ,シュニッツラー,ダウテンダイらが代表的な作家である。また郷土文学を志したものもあり,ヘッセ,L.トーマらを含めることもある。ホーフマンスタールの影響でウィーンで盛んになった。

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