イギリスの聖書翻訳者。オックスフォード大学、ケンブリッジ大学に学ぶ。1522年ごろ当時国内の宗教的覚醒(かくせい)の必要を痛感して、彼は原典聖書からの直接英訳を決意したが、祖国ではかなわず、ドイツのウォルムスで『新約聖書』(1526)を、さらに『旧約聖書』の「モーセ五書」(1530)を完成した。だが当局からはいれられず、異端者としてローマ官憲に捕らえられ、焚殺(ふんさつ)された。しかし彼の試みは後の聖書翻訳、とくに『欽定(きんてい)訳聖書』(1611)の偉大な先駆となり、一般民衆の聖書への関心を高めた。このように彼の生涯にわたる聖書翻訳の偉業は、イギリスにおける宗教改革の礎石となった。一方彼の神学政治上の見解では反ローマ主義を基調として、聖書の権威所属をめぐる論争『モア卿(きょう)の対話への回答』(1530)があり、さらに『キリスト者の服従』(1528)では国王の絶対主権に神学的素地を与えた。それらはイギリス近代の黎明(れいめい)をもたらした。
[玉井 実 2018年1月19日]
『八代崇著『イギリス宗教改革史研究』(1979・創文社)』
イギリスの理神論者、法律家。オックスフォード大学オール・ソールズ学寮のフェロー。名誉革命(1688)ののち、リベラルな低(てい)教会やホイッグ党を拠点に、革新的な信仰や出版の自由を擁護したが、高(こう)教会の僧職制度に反論した著書『キリスト教会の諸権利』(1706)は激しい非難を受け、焚書(ふんしょ)となった。晩年の主著『天地創造と同じく古いキリスト教』(1730)では、キリスト教を自然法則や理性認識に一致させ、啓示や奇跡を排除し、「理神論の聖書」と称された。本著はドイツの啓蒙(けいもう)神学にも影響を与えた。
[玉井 実 2018年1月19日]
『L・スティーヴン著、中野好之訳『十八世紀イギリス思想史 上』(1969・筑摩書房)』
イギリスの物理学者。アイルランドの生れ。ハンプシャーのクイーンウッド・カレッジで数学と製図を教えていたが,1848年同僚であった化学者E.フランクランドとともにドイツに赴き,マールブルク大学で学んだ。彼は磁極間におかれた結晶体のふるまいについての研究から科学研究に入り,51年に研究結果を発表,翌年にはM.ファラデーの引立てによってローヤル・ソサエティの会員に選ばれた。さらに53年に王立研究所の自然哲学の教授となり,67年からはファラデーの仕事を全面的に引き継ぐこととなった。ティンダル現象の名で呼ばれている大気中での太陽光線の散乱現象の研究,スレートのへき開の研究やそれと関連して氷河運動の研究などの業績があり,また熱現象に対しては分子運動論的解釈を支持した。非常に多くの論争経験をもつ一方,王立研究所で多くの講演をするなど,優れた科学啓蒙家でもあった。
執筆者:日野川 静枝
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1494頃~1536
イギリスの宗教改革家。エラスムスの影響を受け,新約聖書の翻訳を決意して最初の英訳聖書を完成したが,ドイツ各地を亡命。捕えられて処刑。しかしその聖書が本国に密輸されて大きな刺激を与えた。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
…抗カビ,抗ウイルスまた新しい薬理作用をもった抗生物質,微生物生産物の開発も現在なお続けられ,抗生物質は人類の健康に貢献することきわめて大なるものがある。
【抗生物質の発見史】
2種の微生物を同時に培養した場合に,一方の微生物の発育が阻止されることを拮抗現象antagonismと呼ぶが,拮抗現象の研究はJ.ティンダル(1876),パスツール(1877)に始まるといわれている。1900年に入って,何人もが拮抗現象を有する物質を抽出し,ミコフェノール酸などが報告されたが,医薬品としての利用は考えられていなかった。…
…多数の粒子が不規則に散在する透明媒質中に光を通し,透過光の方向と異なる方向から観測したとき,光の通路が散乱光によって輝いて見える現象をいう。光の散乱現象の研究は古いが,物理学の具体的研究として初めて登場したのがJ.ティンダルが発見したこの現象で,この場合の散乱光をティンダル散乱光と呼ぶ。青空の光,コロイド溶液による光の散乱などがその例であり,この現象はレーリー散乱によるものとして説明されている。…
…18世紀ころから知的好奇心の対象となり始め,19世紀になると科学的な研究が盛んに行われるようになった。初期の研究者ではイギリスの物理学者J.ティンダルが有名である。彼はT.H.ハクスリーと協力してアルプスの氷河を研究し,多くの科学解説書を著した。…
…その後,45年の自費出版の論文《生物の運動と物質代謝との関連》および48年のやはり自費出版の論文《天体力学への寄与》においてもエネルギー保存則を展開した。しかしながら彼の論文は学界の注目を集めるには至らず,正当な評価を得ることができたのは,J.ティンダルらがその真価を明らかにしてからで,60年代に入ってからのことであった。【山口 宙平】。…
※「ティンダル」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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