日本大百科全書(ニッポニカ) 「ティンダル」の意味・わかりやすい解説
ティンダル(William Tyndale)
てぃんだる
William Tyndale
(1494ころ―1536)
イギリスの聖書翻訳者。オックスフォード大学、ケンブリッジ大学に学ぶ。1522年ごろ当時国内の宗教的覚醒(かくせい)の必要を痛感して、彼は原典聖書からの直接英訳を決意したが、祖国ではかなわず、ドイツのウォルムスで『新約聖書』(1526)を、さらに『旧約聖書』の「モーセ五書」(1530)を完成した。だが当局からはいれられず、異端者としてローマ官憲に捕らえられ、焚殺(ふんさつ)された。しかし彼の試みは後の聖書翻訳、とくに『欽定(きんてい)訳聖書』(1611)の偉大な先駆となり、一般民衆の聖書への関心を高めた。このように彼の生涯にわたる聖書翻訳の偉業は、イギリスにおける宗教改革の礎石となった。一方彼の神学政治上の見解では反ローマ主義を基調として、聖書の権威所属をめぐる論争『モア卿(きょう)の対話への回答』(1530)があり、さらに『キリスト者の服従』(1528)では国王の絶対主権に神学的素地を与えた。それらはイギリス近代の黎明(れいめい)をもたらした。
[玉井 実 2018年1月19日]
『八代崇著『イギリス宗教改革史研究』(1979・創文社)』
ティンダル(Matthew Tindal)
てぃんだる
Matthew Tindal
(1655/1657―1733)
イギリスの理神論者、法律家。オックスフォード大学オール・ソールズ学寮のフェロー。名誉革命(1688)ののち、リベラルな低(てい)教会やホイッグ党を拠点に、革新的な信仰や出版の自由を擁護したが、高(こう)教会の僧職制度に反論した著書『キリスト教会の諸権利』(1706)は激しい非難を受け、焚書(ふんしょ)となった。晩年の主著『天地創造と同じく古いキリスト教』(1730)では、キリスト教を自然法則や理性認識に一致させ、啓示や奇跡を排除し、「理神論の聖書」と称された。本著はドイツの啓蒙(けいもう)神学にも影響を与えた。
[玉井 実 2018年1月19日]
『L・スティーヴン著、中野好之訳『十八世紀イギリス思想史 上』(1969・筑摩書房)』