日本大百科全書(ニッポニカ) 「テミン」の意味・わかりやすい解説
テミン
てみん
Howard Martin Temin
(1934―1994)
アメリカのウイルス学者。フィラデルフィアに生まれる。1955年スウォースモア大学を卒業、カリフォルニア工科大学大学院でウイルス学を専攻、ダルベッコーの指導を受けて、1959年に博士号を取得した。1960年ウィスコンシン大学医学部の助教授となり、1964年準教授、1969年教授に昇格した。1974年アメリカがん協会の教授となった。
1960年代にラウス肉腫(にくしゅ)がダクチノマイシンで抑制されることを発見、このウイルスの増殖過程を詳しく研究し、リボ核酸(RNA)がデオキシリボ核酸(DNA)に複製されるのではないかと仮定した。それまでの定説では、DNAからRNAに一方的に複製されるとされていたが、その逆のケースの逆転写酵素を発見したのである。この説は、テミンと独立に発見したボルティモアの論文とともに、1970年『ネイチャー』に発表された。逆転写酵素の発見は、遺伝情報の伝達に新しい経路を示すとともに、がんの発生メカニズムを解くうえでも重要なものとなった。1975年「腫瘍(しゅよう)ウイルスと細胞遺伝物質の相互作用に関する発見」により、ダルベッコー、ボルティモアとともにノーベル医学生理学賞を受賞した。
[編集部 2018年9月19日]
『H・M・テミン著、日経サイエンス編集部編『健全な細胞はどうガン化するか』(1983・日経サイエンス)』