日本大百科全書(ニッポニカ) 「テングコウモリ」の意味・わかりやすい解説
テングコウモリ
てんぐこうもり / 天狗蝙蝠
Japanese great tube-nosed bat
[学] Murina hilgendorfi
哺乳(ほにゅう)綱翼手目ヒナコウモリ科の動物。日本の固有種で、本州、四国、九州に分布し、森林、洞窟(どうくつ)、ときに建造物に生息する。前腕長40ミリメートル、頭胴長60ミリメートル。鼻孔は管状に突出し、耳介は卵円形、耳珠は細長く先端がとがる。体毛は羊毛状、腿間膜(たいかんまく)は上下面とも毛を密生する。体上面は灰汁(あく)色で、銀色に光る長い上毛がまばらに生え、下面は淡オリーブ灰色。翼が幅広く、比較的低空を飛翔(ひしょう)する。普通、単独または数頭ですみ、夕方早く飛び出しカブトムシやガなどの昆虫を食べる虫食性の種である。洞窟で多数の遺骸(いがい)が発見されたことがあるが、生きた大きなコロニーの記録はない。
近縁種として日本には、本種より小形で鼻孔が突出し、毛色が金色に近いコテングコウモリM. silvaticaが北海道、本州、対馬(つしま)などに、中形で腿間膜に毛がなく枯れ葉色のクチバテングコウモリM. tenebrosaが対馬に分布する。1920年(大正9)に屋久島(やくしま)からコテングコウモリとして記録されたものは、後者と思われる。なお、インド北東部、中国、樺太(からふと)(サハリン)などには近縁のキタテングコウモリM. leucogasterを産する。
[吉行瑞子]