翻訳|lye
一般には植物の灰を水に浸し、その上澄み液をとったものをいう。もっとも古くから知られていたアルカリであり、その語源もアラビア語のqali(植物灰)に由来している(これに定冠詞alをつけたalqaliが語源)。アルカリ性を示し、洗浄作用があってよく汚れを落とすので、洗剤、漂白剤として、また染色などに広く用いられていた。陸の植物の灰からとった灰汁は炭酸カリウムが、また海の植物では炭酸ナトリウムが主として含まれている。
[中原勝儼]
調理上では、えぐ味、苦味、渋味などあまり好ましくない味やにおいなどの総称。木灰を用いて不快な成分を処理したことから、成分のことを意味するようになった。その成分は非常に多く、各種の物質が含まれる。植物ではホモゲンチジン酸、シュウ酸、タンニン類、配糖体など、動物性食品では脂肪酸化物、可溶性タンパク質などが含まれる。あくの成分は食品の個性的な風味の一部でもあるので、調理では完全に除去するのではなく、適度に「あく抜き」するようにくふうがされる。灰汁(あくじる)は、葉緑素を含む野菜類の色止めや、野草類の有機酸に由来する「あく抜き」、山菜など食品の堅い組織の軟化などに役だつ。
[河野友美・山口米子]
野草などには「えごい」「えぐい」ということばを使うこともあるが、あくの強いものが多いので、灰汁、重曹(炭酸水素ナトリウム)、塩、酢などを加えた水を用いて、あくを除去してから料理する。現在木炭の使用が少ないためその灰を用いる灰汁よりは、重曹、焼きミョウバンが多く使われている。ダイコン、カブを煮るとき、米のとぎ汁か焼き米少々を加えると、くせがとれ、白く早く柔らかになる。サトイモは塩でもみ、水から煮て、水洗いすると、ぬめりとあくがとれる。肉類を煮込む場合などには、表面に浮かぶ泡をあくとしてすくい取る。かつお節やコンブのだしをとるときにも、沸き立ったとき、表面の泡をとるのはあくを切るためである。また、とくにあく抜きということばを用いていないが、イワシ、サンマなどの魚類を焼くときは、強く加熱して表面を焦がし、不純な脂肪などを焼いて除去する。ウナギの蒲(かば)焼きをつくるとき、関西風では蒸さないで直(じか)焼きをするが、これは、強く加熱して、表面の、いわばあくを焼き切る方法である。関東風ではさらに蒸すが、これもあく抜きの目的が加わっているのである。
[多田鉄之助]
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
植物を焼いた灰を水に浸したときに得られる上澄みをいう。かなり強い塩基性を示し,洗浄作用があってよく汚れを落とすので,古くから洗剤,漂白剤として,また染色などに広く用いられていた。たとえば,平安時代にはすでに灰を洗濯に使っているし,最近までも木造家屋の洗浄に〈あく洗い〉として用いられていた。また和紙の製造には,古来,たとえばコウゾの皮などの製紙原料をあくを使って煮沸して繊維を取り出している。陸の植物からとった〈あく〉には主として炭酸カリウムが含まれており,海の植物には主として炭酸ナトリウムが含まれている。最も古くから知られているアルカリであり,アルカリという語も,アラビア語のal-qalī(灰)に由来しているとされている。
調理上では,植物性食品に含まれ,えぐみ,しぶみ,にがみなどの原因となるアルカリ塩,アルカロイドその他の成分を〈あく〉といい,これらをゆでこぼしたり,前述のあく,炭酸カリウム,炭酸ナトリウムなどで除くことを〈あく抜き〉といっている。
執筆者:中原 勝儼
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