日本大百科全書(ニッポニカ) 「デイアネイラ」の意味・わかりやすい解説
デイアネイラ
でいあねいら
Deianeira
ギリシア神話のカリドン王オイネウスの娘で、メレアグロスの姉妹。怪犬ケルベロスを求めて冥界(めいかい)に降(くだ)ったヘラクレスは、そこでメレアグロスの亡霊に会い、その頼みからデイアネイラと結婚することを約束する。そしてカリドンにやってきたヘラクレスは同じ求婚者のアケロオスの河神と争ったのち、彼女を得た。彼女はヒロスを生むが、誤って人を殺したために追放される夫に従い、息子とともにトラキスに向かう。途中エウエノス川でケンタウロスのネッソスに川を渡してもらうが、あやうくネッソスに犯されかかったとき、ヘラクレスの射る矢で救われた。その矢には水蛇ヒドラの毒が塗られていた。瀕死(ひんし)のネッソスは、いつの日にか夫の愛を取り戻すことになろうと、自分の血をとっておくように彼女に教え、彼女は勧められるままにそれをとっておいた。
のちにヘラクレスがドリオプス人を征服したとき、彼女は夫とともに奮戦して胸に負傷したが、ひるむところがなかったという。もともと彼女は尚武(しょうぶ)の気風の濃いアイトリアの出身で、武具と武器の扱いに習熟した女丈夫であったらしく、貞淑な人妻というイメージはむしろ新しい。のちにデイアネイラは、夫がオイカリアを攻略して若いイオレを捕虜としたことを聞くと、夫の愛が彼女に移るのを恐れ、いつかのネッソスの血を夫の下着に塗って送り届けた。これがもとでヘラクレスは非業の最期を遂げ、彼女も事の次第を知って縊死(いし)した。
[伊藤照夫]