紐(ひも)などの類(索条)を頸(くび)の周りに巻くか、またはかけ、その端を他の物体に固定して体を懸垂し、自己の体重を利用して頸部(けいぶ)を圧迫し(縊頸(いけい))死亡すること。首つり、縊首(いしゅ)ともいう。索条にかわるものとして、木の枝の分岐部や梁(はり)などが用いられることもある。高所に固定した索条を前頸部にかけて宙づりとなり、全体重を利用したのが定型的縊死で、索条は前頸部でもっとも低く、左右対称的に後上方に向かってかかっている。これ以外のが非定型的縊死で、足が床や地面についていたり(この場合は体重の80%前後がかかる)、坐位(ざい)、臥位(がい)などがあり、体重のかかり方、索条の走向もいろいろである。縊死に必要な最低重量は体重の3分の1から4分の1である。死因となるものは、縊頸で舌根部が上にあがって咽頭腔をふさぐ気道閉鎖(窒息)、頸部血管の圧迫閉鎖による脳循環機能障害、迷走神経などの頸部神経の圧迫刺激による反射性神経障害である。縊死の形態によって、それぞれが独立的に、あるいは相連合して死因となりうるが、前二者が大きな役割をもち、とくに脳循環機能障害が重要な因子となる。
皮膚に接した索条の圧迫・擦過(さっか)による痕跡を縊痕(いこん)、溝状のくぼみを縊溝(いこう)という。縊溝は初めは蒼白(そうはく)で、しだいに茶褐色革皮様となる。タオルのような索条では浅く広く、針金や縄のような索条では深く狭い。定型的縊死では、縊溝は喉頭(こうとう)隆起より上位前頸部でもっとも著明で、後上方に進むにつれ弱くなり、顔面は頸動静脈、椎骨(ついこつ)動脈の圧迫閉鎖で一般に蒼白となる。非定型的縊死では、顔面は暗赤色で腫脹(しゅちょう)している。縊頸者が生存状態のときには、索条を解き、救急蘇生(そせい)術を行う。多くは自殺であるが、縊死を装う擬装縊死(他殺後に懸垂)もある。日本の絞首刑は刑法上は絞首であるが、死刑方法は厳密には縊首である。
[澤口彰子]
いわゆる“首吊り”によって死亡すること。細長い紐状物を首にあてがうか,首に巻いて,その端を木の枝などに固定し,自己の体重の全部あるいは一部を利用して頸部を圧迫して死亡することである。紐状物によってついた皮膚の溝状圧迫痕を縊溝という。自殺の手段として古くから用いられており,ほとんどの場合が自殺であるが,まれに他殺や事故死があり,自他殺の論争の種になったものもある。同じように紐状物で頸部を圧迫しても,自分の体重を利用しないものは絞死として区別する。したがって,日本の〈絞首刑〉は絞死ではなく縊死である。縊死は定型的縊死と非定型的縊死に分けられ,定型的縊死は紐状物が左右対称的に前頸部から左右の耳介の後方を通り,後上方に向かい,体が宙に浮き,全体重が紐状物にかかっている場合である。この場合,脳への血液供給血管はすべて閉塞され,眼結膜に溢血(いつけつ)点は出現せず,死因は窒息ではなく,脳への血流停止である。ときに頸動脈洞の圧迫によるショック死であることもある。定型的縊死以外を非定型的縊死といい,木のまたを利用したものもある。非定型的縊死の死因は,その状態により,脳への血流停止か窒息であるが,両者が競合していたり,共同して死因となっていることもある。
執筆者:小嶋 亨
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…このような場合,日本の法律では,依頼された人,そそのかし,強制した人は殺人罪に問われる。また,縊死(いし)した場合のように行為と死亡との間に直接的因果関係がある場合は自殺として問題はないが,腹部を刺して,そのために生じた腹膜炎によって死亡した場合のように,間接的な因果関係の場合も,病死ではなく,自殺である。死亡した人の自殺,他殺,事故死の鑑別は非常に重要であるが,目撃者のないことがほとんどである自殺を,明確にすることは困難な場合が少なくない。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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