改訂新版 世界大百科事典 「デスマン」の意味・わかりやすい解説
デスマン
desman
食虫目モグラ科のうち2種の哺乳類の総称。ヨーロッパにすむ水生のモグラ類。陸生のモグラに似るが,四肢は比較的長く,大きく発達した後足に水かきがある。前足の水かきは小さい。尾は長く,基部に麝香(じやこう)臭を発する臭腺がある。長くチューブ状にのびる鼻はあらゆる方向に曲げることができ,遊泳中にはスノーケルとして働き,先端につく鼻孔は水中では閉じる。目はごく小さく,耳介はない。川岸に長いトンネルを掘って巣とし,水中を泳いで鼻で食物をあさる。食物は,おもにミミズ,貝類,昆虫などの水生の無脊椎動物,オタマジャクシや小魚も食べるが,敏しょうに泳ぐ大きな魚はとらえることができない。ボルガ川,ドン川,ウラル川にすむロシアデスマンDesmana moschataと,フランス南部,スペイン北部,ポルトガル北部の山岳地帯にすむピレネーデスマンGalemys pyrenaicusがある。前者は大型で,体長18~22cm,尾長17~21.5cm。体色は赤褐色で,カワウソに似た柔らかな毛をもつ。1900年代の初めに,毎年2万頭もが毛皮獣として捕獲されたため激減したが,現在は保護され,オビ川,ドニエプル川などにも放されて増加しつつある。雌は妊娠期間40~45日で,3~4子を夏から秋にかけて生む。後者は,体長11~15.6cm,尾長12.6~15.6cm,体重50~80g。おもに山間の渓流にすみ,体色は濃い褐色ないし黒色。繁殖期は3~7月で,雌は2~4子を生む。飼育下での寿命は3.5年。
執筆者:今泉 吉晴
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報