トランジションボンド(読み)とらんじしょんぼんど(英語表記)Transition Bond

日本大百科全書(ニッポニカ) 「トランジションボンド」の意味・わかりやすい解説

トランジションボンド
とらんじしょんぼんど
Transition Bond

鉄鋼化学、航空など温暖化ガス排出量の多い産業の排出削減につながる事業にあてる資金を得るために発行する債券トランジションには「移行、変化」の意味があり、多排出産業を低排出産業へ移行させるための資金を調達する目的がある。移行債と訳される。フランスの保険大手の資産運用子会社アクサ・インベストメント・マネージャーズ(アクサIM)が2019年、脱炭素化産業・事業の育成にあてるグリーンボンド(環境債)とは峻別(しゅんべつ)し、低炭素化に役だつプロジェクトを資金使途とする債券の仕組みとして提唱した。グリーンボンドほど排出に関する基準は厳しくなく、投資家に支払う利回りはグリーンボンドより高くなる傾向がある。地球全体で持続可能な社会を築くために発行するSDGs債の一種である。なお、低炭素化への移行を目的とした債券発行や融資を総称して、トランジション・ファイナンスとよぶ。

 脱炭素社会の実現には、温暖化ガスを排出しないグリーン産業・事業の育成・拡大だけでなく、多排出産業・事業の低炭素化を後押しする必要がある。世界的にグリーンボンド(環境債)の発行は増えているものの、とくにヨーロッパでは多排出産業がグリーンボンドを発行しづらい環境にあった。このためグリーンボンドの発行基準は満たさないものの、低炭素化への移行に役だつ省エネや技術開発に資金をあてる目的で提唱された。金融業界団体の国際資本市場協会(ICMA)が2020年、トランジションボンド発行の条件などをまとめた指針「トランジション・ファイナンスの指針」を公表。日本政府も2021年(令和3)、発行条件などの指針を発表した。発行企業は、温暖化ガスの排出削減に向けた投資計画や温暖化ガスの削減根拠などを示し、第三者機関の検証を受ける必要がある。格付け会社S&Pグローバル・レーティングによると、2050年に二酸化炭素(CO2)の実質排出ゼロを達成するのに必要とされる資金(年間約3兆ドル)のうち、トランジション・ファイナンスによって年間1兆ドル規模が調達される可能性がある。日本では鉄鋼、化学、セメント運輸、航空、電力石油、ガス会社などが2021年から積極的に発行。(1)重油石炭から液化天然ガスなどへ燃料の転換、(2)アンモニア混合など製造工程の革新による温暖化ガスの削減、(3)二酸化炭素を回収・利用・貯留するCCUS技術の開発、などにトランジションボンドで調達された資金が使われている。

[矢野 武 2022年12月12日]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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