トレンティノアルトアディジェ(英語表記)Trentino-Alto Adige

改訂新版 世界大百科事典 の解説

トレンティノ・アルト・アディジェ[州]
Trentino-Alto Adige

イタリア北東部の州。面積1万3607km2,人口97万4613(2004)。トレントボルツァーノ・ボーゼンの2県からなり,州都はトレント。西はスイスとロンバルディア州,北はオーストリア,東と南はベネト州に囲まれている。北西部の州境および国境はアルプス分水嶺とほぼ一致しており,また東のベネト州との境は特異な山容をみせる3000m級のドロミティ・アルプスの山々が連なる。州全体が山岳地域であり,ベネト州へ南流していくアディジェ川やその支流のイザルコ川がつくり出す谷沿いにわずかの平地があり,トレント(ドイツ語名トリエント),ボルツァーノ(ボーゼン),ブレッサノネ(ブリクセン),メラノ(メラーン)など主要都市がいくつか点在している。

 全面積の半分以上は森林で,次いで牧草地の占める割合が大きく,農業における牧畜業の比重が高い。果樹栽培も盛んで,特にリンゴやナシの生産量は国内でも上位を占める。ブドウは谷間の斜面の階段状の畑で栽培され,良質のブドウ酒を産する。工業生産ではまず水力発電が際だっており,発電量はロンバルディア州に次いで同国第2位であるが,主として他の州に供給されている。鉱物資源採掘中世に始まっているが,今日では斑岩,セメント用石灰石など建設材料が中心で,ほかにボルツァーノとトレント付近でのアルミニウム生産が目だつ程度である。製造業では,トレントに機械・化学工業が立地しているが,全体的には木材加工,繊維,農産物加工,醸造など伝統的な産業が主力である。州全体がアルプスを中心とした美しい景観に恵まれているため,投資は観光開発に向けられがちで,ホテル,スキー場などの建設を請け負う建設業や,各種のサービス業などの比重が大きい。しかし,行き過ぎた観光開発に対し,州は自然環境保護の政策をとり始めている。

 11世紀から19世紀初めまでトレント司教伯領であった現在のトレント県は,ナポレオン失脚後のウィーン体制でオーストリア領となり,チロル地方に併合されたが,第1次世界大戦後に,現在のボルツァーノ・ボーゼン県にあたる南チロル(チロル地方のうちアルプスの南斜面にあたる地域,すなわちアルト・アディジェ地方)を含む形でイタリアに返還され,ベネチア・トレデンティーナ州と呼ばれた。そのため当初から南チロルのドイツ語系住民の存在は解決の難しい多くの問題を生み,ファシズム期の強制的なイタリア同化政策はかえって彼らの反感を高めた。第2次大戦後は特別州として,いち早く自治を認められたが,その後もアルト・アディジェ地方のオーストリアへの割譲,返還を求める動きは根強く,現在は自治権の拡大という形で妥協がはかられている。ドイツ語系住民の方が多いボルツァーノ・ボーゼン県は,独伊2ヵ国語が公用語で,さらに山間部にはわずかながらラディン語を話す人々がいる。
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百科事典マイペディア の解説

トレンティノ・アルト・アディジェ[州]【トレンティノアルトアディジェ】

イタリア北東部の州。トレントとボルツァーノの2県からなる。州都はトレント。州全体が山岳地帯で,アディジェ川とその支流がつくる谷沿いのわずかな平野にトレント,ボルツァーノなどの主要都市がある。農業では牧畜業の比重が高く,リンゴ,ナシ,ブドウなどの果樹が栽培される。工業生産では,水力発電が際だっており,他州に提供される。州全体がアルプスを中心とした美しい景観に恵まれ,観光開発が進んでいる。11世紀から19世紀初めまでトレント司教領であった現在のトレント県はウィーン体制でオーストリア領になり,チロル地方に併合されたが,第1次大戦後に現在のボルツァーノ県にあたる南チロル(イタリアではアルト・アディジェ地方と呼ぶ)を含む形で返還された。そのため当初から南チロルのドイツ語系住民の存在は多くの問題を生み,ファシズム期の強制的なイタリア同化政策は彼らの反感を高めた。第2次大戦後はいち早く自治を認められたが,その後もボルツァーノ県の完全自治あるいはオーストリアへの帰属を求める激しい運動がテロをともなって続いたため,自治権の拡大,ドイツ語の公用語化などといった措置で事態の改善がはかられた。このほか山間部にラディン語を話す人々がいる。面積1万3607km2,102万9475人(2011)。

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