翻訳|trombone
金管楽器の一種。その名からも推察される通り,大型のトロンバ(トランペットの別名)として成立し,15世紀以来の歴史がある。管形は円筒管部分が優勢,歌口(マウスピース)の内面は盃形。音に張りがあって力強い。管の途中に設けたU字状折返しをスライドに作ってあり,把手を押し引きすると管が伸縮する。管長を随時・自在に変えられることは,音程を自由に作れることである。スライド操作の面で運動性の制約はあるものの,他の金管楽器には求められない手加減の融通もきく。吹奏しながらの操作で音を連続的にずらす(ポルタメント,グリッサンド),スライド移動の急反復で音をゆらす(ビブラート)等々,独特の奏法が可能である。こうした管長可変の機構を,成立当初からもっていた点に独自性がある。今日では他の金管楽器と同じ弁の機構をもつバルブ・トロンボーンもあるが,一部での使用にとどまっている。楽器の基調もいろいろあるが,いずれも移調楽器としては扱わず,実音通りの楽譜で演奏する。基調を決めるのは,スライドを引いて管を最短にしたときの倍音列である。管長2.7mほどで変ロ調のテノール・トロンボーンが標準的で,常用可能の音域は約2オクターブ半,その最低音は(スライドをいっぱいにのばして)大字ホである。ペダル音(倍音列の基音)は常用音域外の低音であるが,その特異な音色を利用することがあり,音高は下1点変ロ以下である。もっと大型・低音で,管も太目のバス・トロンボーンは,ドイツではヘ調,イギリスではト調が中心であった等々の歴史もあり,規格は必ずしも一定しない。変ロ調テノールとヘ調バスを合体させ,相互に切り換える弁をつけたテノール・バス・トロンボーンもよく用いられる。管弦楽の場合テノール,テノール・バス,バス各1というチーム編成が基本である。軍楽,吹奏楽,金管合奏では中核的な役割をもち,ポピュラー音楽の諸分野でも活用されている。とくにジャズでは独奏楽器としても用いてその魅力をひきだしている。
執筆者:中山 冨士雄+関根 裕
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
リップリード(唇を発音源とする)の気鳴楽器の一つ。西洋音楽のいわゆる金管楽器に属し、トランペットと同様、管は円筒形を基本としている。現在一般に用いられているのは、管の一部をスライドさせることで管長を変え、それによって音高を変えることができるスライド式トロンボーンである。これは構造的には非常に単純で、外見上は長い1本の管を途中で2回折り返した形をしているが、実際には3本の管とそれをつなぐ2本のスライド管からなっている。スライド管のうち、歌口から奏者の前方に出ているものは、演奏中につねに動かして必要な音高を得るために用いられ、前方から折り返してきて奏者の肩の後方に位置するものは、楽器自体のピッチを微調整するために用いられる。実際の発音は、スライドをいちばん手前に引いた位置(第1ポジション)からスライドを伸ばして、順に半音ずつ低い第7ポジションまでの音を唇の調節による倍音の選択と組み合わせてなされる。このスライド管がトロンボーンの大きな特色で、これによってポルタメントなど他のいわゆる金管楽器には困難な演奏が可能となる。今日もっとも使用されるスライド式はテノール(B♭管)のタイプで、テノール・バス(通常B♭管、弁の操作でF管に切り替え可能)がこれに次ぐ。このほかにもソプラノ(B♭管)、アルト(E♭管)などがある。
このスライド式のほか、トランペットのようにバルブ・ピストンを用いたバルブ・トロンボーンとよばれるものもある。19世紀後半にはドイツ、イタリアなどでよく用いられたが、音質があまりよくないため、今日ではほとんど用いられない。
[卜田隆嗣]
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