日本大百科全書(ニッポニカ) 「テノール」の意味・わかりやすい解説
テノール
てのーる
tenor 英語
Tenor ドイツ語
ténor フランス語
tenore イタリア語
(1)中世の多声楽曲のなかで上声部を支えるもっとも低い声部(定旋律。ラテン語でcontus firmus)。この声部は、一般に長い保持音から構成されていたため、「保持する」の意のテネーレtenere(ラテン語)に由来するテーノルの語があてられた。その後、テーノルより低い声部にバス声部が加えられ、テーノルは下から2番目の声部となる。バロック以降、テーノルは現在のようにテノールとよばれ、四声体の合唱曲における下から2番目の声部をさすようになった。
(2)男声のなかでもっとも高い声域。その音域は一般にC3-A4であるが、オペラの独唱などの場合、しばしばC5まで要求される。さらに、オペラのテノールの場合、声質によって、優美で甘い声のテノーレ・リリコtenore lirico(イタリア語)や、輝かしく力強い声のヘルデン・テノールHelden Tenor(ドイツ語)などに分類される。
(3)テノール声部のために使用される音部記号をテノール記号tenor clef(英語)という。これはハ音記号であり、五線譜の第四線をC4と定めたものである。
(4)多種の大きさがある同族楽器のなかで、テノールの声域と同じ音域をもつものに、テノール・リコーダーやテノール・サックスのようにテノールの語がつけられる。
[黒坂俊昭]