トーマスリン肥(読み)トーマスりんぴ(その他表記)Thomas phosphate

改訂新版 世界大百科事典 「トーマスリン肥」の意味・わかりやすい解説

トーマスリン(燐)肥 (トーマスりんぴ)
Thomas phosphate

トーマス法製鋼の副産スラグで,トーマス鉱滓こうさい)(スラグ)とも呼ぶ。リン酸肥料として利用される。溶融法で製造されるという意味では,広義の溶成リン肥一種である。トーマス転炉中の含リン銑鉄溶融物に酸化カルシウムCaOを加えて空気を吹き込むと,リンが酸化して五酸化二リンP2O5となりCaOとともにスラグ中に入る。これを流し出して徐冷固化させたのち粉砕して製品とする。暗褐色の重い結晶性粉末で,水不溶性,弱酸可溶性である。P2O517~18%前後を含む。シリコカーノタイトCa5(PO42SiO4主成分とする。ヨーロッパではドイツを中心として多量に生産される。日本では第2次大戦をはさんで2度ほど数年間ずつ生産されていたが,製鋼方式が改変されたのにともない,現在は中止している。日本の公定規格に定められる肥料の種類には入っていない。しかし高塩基性かつクエン酸可溶性の,リン酸・ケイ酸・カルシウム質肥料として,特色ある存在である。
リン酸肥料
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「トーマスリン肥」の意味・わかりやすい解説

トーマスリン肥
とーますりんぴ

19世紀末にイギリスで発明されたトーマス製鋼法により副生するリン酸含量の高いスラグ(残滓(ざんし))で、塩基性リン肥として価値があり利用される。このスラグの組成は酸化カルシウム40~55%、五酸化リン15~22%、ケイ酸5~10%、酸化鉄12~16%、酸化マンガン5~10%、酸化マグネシウム2~3%であり、鋼1トン当り200キログラム程度生成する。得られた暗褐色の塊を微粉砕して製品とする。水に不溶であるが、クエン酸アンモニウム溶液には可溶であり、この可溶性向上のためケイ酸分などを加え改質することもある。遅効性であるが、酸化カルシウムに富み、酸性土壌を中和する力があり、鉄、マンガンマグネシウムなどの有効成分をも含んでいる。リンを多く含む鉄鉱石を産するヨーロッパで多く生産されているが、製鋼法の変遷によるトーマス法の減少につれ、生産も急減している。なお、日本では製鋼法の改善で生産が停止された。

[井口泰孝]

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百科事典マイペディア 「トーマスリン肥」の意味・わかりやすい解説

トーマスリン(燐)肥【トーマスりんぴ】

リン酸肥料の一種。含リン銑鉄をトーマス転炉(転炉)により製鋼する際の鉱滓(こうさい)を粉砕したもの。暗褐灰色のやや重い粉末。シリコカーノタイトCa5(PO42SiO4を主成分とし,五酸化二リンP2O518%前後を含有塩基性肥料で酸性中和力が強い。元肥にする。日本では製鋼方式の改変に伴い生産中止。

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世界大百科事典(旧版)内のトーマスリン肥の言及

【スラグ】より

…また最近はスラグのもつ熱エネルギーを回収する技術が実用段階に達している。なおトーマス転炉から発生するスラグは,原料が高リン銑であるためにP2O5が18~22%に達し,トーマスリン肥として肥料に使われていたが,この製鋼法の衰退とともに現在はほとんど見られない。【佐野 信雄】。…

※「トーマスリン肥」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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