改訂新版 世界大百科事典 「元肥」の意味・わかりやすい解説
元肥 (もとごえ)
作物の種播き前,あるいは苗の移植の前に農地に施用する肥料。基肥とも書き,〈きひ〉ともいう。元肥は作物の若い時期の活発な生長を助け,苗の活着を促すのに役立ち,作物生育の土台をつくることになるので,通常の栽培では必ず施用する。また一部は土壌中に保持されて作物の後期の生育にも役立つ。
堆肥や厩肥(きゆうひ)などの粗大有機物や有機質肥料は,土壌中であらかじめ分解されないと肥効を示さないので,追肥に用いても効果はなく元肥に用いる。またこれらの肥料効果は持続するので元肥として施しても後まで有効である。またリン酸肥料のように土壌に強く固定されて移動しにくいものは,追肥として土の表面に施しても作物の根の部分にまで届かないので効果はなく,元肥として作物の根が伸びてくる場所にあらかじめ混入する。水溶性で速効性の窒素肥料は元肥だけで施用しても,畑では硝酸イオンになって流亡し,また水田では灌漑水と溶脱したり,脱窒して揮散するので不足する。ただし流亡や揮散をみこんで多量に元肥に施用すると作物の生育初期にでき過ぎや肥やけと称する濃度障害があらわれるので元肥は控えて必要に応じて追肥する。しかし追肥の施用は労力的に厄介なこともあり,これを省くために元肥だけですむように肥効が持続し流亡の少ない肥料・薬剤がつくられている。例えば尿素とアルデヒドを重縮合させた化合物を緩効性窒素肥料として用いるが,これは土壌中で化学的にあるいは微生物の働きで徐々に加水分解されて溶解し,持続的な肥効を示す。またアンモニア態窒素の硝化を抑制する薬剤,硝化抑制剤を併用すると脱窒や流亡を防止し,肥効を維持することができる。元肥として施用される窒素の利用率は水田では通常30%程度とされ,追肥より一般に低い。畑では降雨の多少,土壌の性質,栽培作物の種類によって変わる。
執筆者:茅野 充男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報