燐酸肥料(読み)リンサンヒリョウ(英語表記)phosphatic fertilizer

デジタル大辞泉 「燐酸肥料」の意味・読み・例文・類語

りんさん‐ひりょう〔‐ヒレウ〕【×燐酸肥料】

燐酸塩の形で燐を多く含む肥料。過燐酸石灰燐酸アンモニウム骨粉しめかすなど。燐肥

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精選版 日本国語大辞典 「燐酸肥料」の意味・読み・例文・類語

りんさん‐ひりょう‥ヒレウ【燐酸肥料】

  1. 〘 名詞 〙 燐酸を多量に含む肥料。過燐酸石灰、燐酸アンモニウム、トーマス燐肥、骨灰(こっかい)、豆かす、油かすなど。燐肥。
    1. [初出の実例]「本邦農業の改良発達に随って燐酸肥料の需用年々増進するに付ては」(出典:読売新聞‐明治三六年(1903)七月二五日)

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改訂新版 世界大百科事典 「燐酸肥料」の意味・わかりやすい解説

リン(燐)酸肥料 (りんさんひりょう)
phosphatic fertilizer

土壌にリン酸を供給することを目的として施用される肥料。核酸,リン脂質,糖リン酸,ATPなどの構成分としてリンあるいはリン酸は植物にとっても必要な養分であるが,土壌中のリン酸含有量は必ずしも多くないので,肥料として施用する必要がある。古くから用いられている有機質肥料の米ぬか,骨粉,グアノはリン酸を比較的多く含み,リン酸肥料でもある。一般に骨粉中のリン酸は溶解性が小さく,肥効が低かったが,J.F.vonリービヒはこれに硫酸を作用させると肥効の高いリン酸肥料すなわち過リン酸石灰となることを見つけた。これを端緒として,1846年に初めて骨粉や糞化石を原料とした過リン酸石灰の生産工場が建設された。その後,原料としてリン鉱石の利用が開始され,過リン酸石灰の生産は著しく増大した。日本では88年に過リン酸石灰の製造が開始されたのが工業的リン酸肥料生産の始めである。以後,1936年にはトーマスリン肥,49年に溶成リン肥,57年に焼成リン肥の生産が開始され,そのころより重焼リン,重過リン酸石灰リン安なども生産されるようになり,リン酸肥料の種類は多様化した。

 日本のリン酸肥料生産量は成分(P2O5)として約70万tで,その大部分が国内で消費されている。昭和50年代におけるリン酸の需要傾向をみると,肥料の高濃度化に伴い重過リン酸石灰,リン安系肥料が増大し,かつては生産割合のトップを占めていた過リン酸石灰の生産は減少している。

 リン酸は土壌に強固に吸着されるので,植物による吸収・利用率は低く,施用リン酸の3~25%が利用されるにすぎない。とくに日本に広く存在する酸性土壌火山灰土壌はリン酸を多く吸着するので,そのような土壌にはより多くのリン酸肥料を施用する必要があり,その効果も大きい。リン酸の施用量は土壌や作物の種類によっても異なるが,多くの作物では10a当り10~20kgである。しかしこの値はすでになん年も作物栽培をしている通常の農地で通用するものであって,開墾や開田したばかりの農地,とくに酸性土壌や火山灰土壌ではこの10倍ほどの量を必要とする。

 市販されているリン酸肥料の主要なものには,リン鉱石を硫酸,リン酸,硝酸などの鉱酸で分解して湿式法で製造する過リン酸石灰,重過リン酸石灰,リン安などがある。これらはリン酸を主として水溶性のリン酸の形で含み,溶解するとH2PO4⁻かHPO42⁻のオルトリン酸になり植物に吸収される。またリン鉱石にアルカリ塩やケイ酸塩を加えて,1200℃ほどで加熱焼成したり,1400℃ほどで溶融して,いわゆる乾式法で製造するリン酸肥料もあり,焼成リン肥溶成リン肥といわれている。これらは水溶性のリン酸成分は少なく,2%クエン酸に溶解する〈く溶性リン酸〉や,クエン酸アンモニウムのアルカリ性液に溶解する〈可溶性リン酸〉の割合が多い。焼成リン肥はリン鉱石とソーダ灰の混合物を焼成したもので,年間数万tの生産量があり,全リン酸量が約40%,その85%以上がく溶性リン酸(約34%)である。これは中性肥料で土壌を酸性化しないし,過リン酸石灰と比較し肥効はやや遅効的であるが,硫酸根を含まないので老朽化水田によい。また酸性肥料塩基性肥料とも配合できる。溶成リン肥は,リン鉱石にほぼ同量の蛇紋岩を加えて,1400℃ほどで溶融,水冷したガラス状粉砕物で,1949年に日本で開発製造された肥料である。マグネシウムを含み,硫酸根を含まない塩基性の肥料で,最近でも年間肥料として約20万t生産され,とくに酸性のリン欠乏土壌やマグネシウム欠乏土壌に,土壌改良材や塩基供給材としても利用されている。全リン酸含量が20%ほどでその85%がく溶性リン酸(17%)であり,肥効は遅効的なので寒冷地や冬作の場合は,水溶性リン酸の多い肥料との併用が望まれる。

 最近はピロリン酸,トリポリリン酸,メタリン酸のカリウム,アンモニウム,カルシウム塩を成分とする縮合リン酸肥料(ポリリン安,スーパーリン酸,メタリン酸石灰など)が製造されている。これらのリン酸成分は溶解性だが,そのまま植物に吸収されるより,土壌中で一度加水分解されオルトリン酸になって吸収されると推定され,比較的遅効性である。このうちメタリン酸石灰は無水リン酸と細粉のリン鉱石とを炉内で約1000℃で加熱溶融し,急冷したガラス状く溶性リン酸肥料で,リン酸約65%,カルシウム25%を含むが,日本の土壌では肥効は低い。
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化学辞典 第2版 「燐酸肥料」の解説

リン酸肥料
リンサンヒリョウ
phosphatic fertilizer

リンを含む肥料.天然に産出したリン鉱石のままで用いるものと,リン鉱石に化学処理をしたものとがある.
(1)リン鉱石からつくられるリン酸肥料:過リン酸石灰3Ca(H2PO4)2・H2O + 7CaSO4,水溶性,P2O516.5%,速効性,大部分は土壌に吸収される.重過リン酸石灰Ca(H2PO4)2・H2O,水溶性.脱フッ素焼成リン肥3Ca3(PO4)2 + CaSiO3,拘(く)溶性,緩効性.メタリン酸石灰Ca(PO3)2,拘溶性.
(2)リン酸鉱石以外の原料からつくられる肥料:トーマスリン肥,含リン銑鉄(P 2~4%)から鋼鉄をつくるときできる鉱さい.発明者S. Thomasの名を冠したもの.
(3)リン安(リン酸アンモニウム類):(NH4)H2PO4,(NH4)2HPO4,(NH4)3PO4の3種類がある.
以上のリン酸肥料は水に溶けにくいが,拘溶性のものもある.工業的に肥料が生産される前は,グアノ,骨粉などの天然リン酸肥料のみを用いたが,19世紀中期に過リン酸石灰が発明され,大量供給が可能となった.近年は複合肥料へ移行する傾向から,単肥としての比重は軽く,多くは複合肥料の原料となっている.[別用語参照]化学肥料

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百科事典マイペディア 「燐酸肥料」の意味・わかりやすい解説

リン(燐)酸肥料【りんさんひりょう】

リン酸を主成分とする肥料。骨粉は古くから用いられたが,現在は過リン酸石灰溶成リン肥がおもで,ほかに焼成リン肥トーマスリン肥,リン安(リン酸アンモニウム)などが使用されている。水溶性,可溶性,く溶性(クエン酸に溶けやすい)のものがあり,後者のほうが遅効性のため元肥に適する。
→関連項目化学肥料肥料肥料工業葉面散布

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