トリニダード(のちイギリスに帰化)の小説家、文明評論家。旧イギリス領トリニダードで生まれたインド系移民三世。地元のカレッジを卒業して、1950年にイギリスに渡り、1954年にオックスフォード大学英文科を卒業した。BBC放送に勤め(1954~1956)、「カリブの声」の番組を担当し自らの出自である「暗黒・荒廃の父祖の国」インドおよび「非文化の国」トリニダードを棄(す)ててイギリスに帰化した。ヨーロッパ文明に身を寄せながら、祖国喪失者・近代主義者の視点から、荒廃と絶望と混迷の支配する現代世界の混沌(こんとん)と不安を描き出す描写は絶品で、その作品は文明の端境期の不安におびえる現代人、とりわけ西側文化人に多大の共感をよんでいる。社会のあぶれ者、人生の敗残者の八方破れの姿を、トリニダード・トバゴのインド人社会を背景に描いた長編で代表作となる『ビスワス氏の家』(1961)のほか、長編に『神秘的なマッサージ師』(1957)、『模倣者たち』(1967)、ブッカー賞受賞作『自由な世界で』(1971)、『ゲリラたち』(1975)、『暗い河』(1979)、短編集に『ミゲル・ストリート』(1959)、『島に掲げる旗』(1967)、評論集に『暗黒地帯』(1964)、『インド――傷ついた文明』(1977)、旅行見聞記に『エバ・ペロンの帰還』(1980)、『信者の間で――イスラム紀行』(1981)、『イスラム再訪』(1998)がある。自伝『中心を見詰めながら』(1984)あたりから、開発途上国に対する非能率・非文化的状況を告発する初期の姿勢に変化がみられ、『インド――百万人の反乱』(1990)では、インドに温かい視線を注ぐ一方、『世界の一つの道』(1994)では、世界市民的視点から、自らの出自であるカリブ文化を再評価している。1989年にトリニダード政府から最高栄誉賞トリニティ・クロスを贈られ、1990年にイギリス政府からナイト爵位に列せられた。2001年ノーベル文学賞受賞。
[土屋 哲 2018年8月21日]
『工藤昭雄訳『インド――傷ついた文明』(1978・岩波書店)』▽『工藤昭雄訳『エバ・ペロンの帰還』(1982・TBSブリタニカ)』▽『小野寺健訳『暗い河』(1981・TBSブリタニカ)』▽『斎藤兆史訳『イスラム再訪』上下(2001・岩波書店)』
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