日本大百科全書(ニッポニカ) 「ナズナ」の意味・わかりやすい解説
ナズナ
なずな / 薺
[学] Capsella bursa-pastoris Medik.
アブラナ科(APG分類:アブラナ科)の越年草。茎は高さ10~40センチメートル、下方で分枝する。根際の葉はロゼット状で羽状に深く裂け、有柄。茎葉は披針(ひしん)形で鋸歯(きょし)があり無柄、基部は矢じり形で茎を抱く。茎、葉ともに単毛と星状毛を混生する。3~5月、総状花序をつくり、白色の小花を多数開く。花弁は倒卵形でつめがある。果実は扁平(へんぺい)な倒三角形で長さ6~7ミリメートル、無毛で果柄は細長い。果実の形が三味線の撥(ばち)に似ており、果実を茎から少しはがしてくるくる回すと、「ペンペン」と音がするので、これを三味線をひく音に例えてペンペングサともいう。田畑、道端などに普通にみられる雑草であり、春の七草の一つに数えられ、若葉は七草粥(がゆ)などの食用とする。全草を止血、止瀉(ししゃ)などに用いる。ナズナ属は世界に5種、日本に1種あり、北半球に広く分布する。
[小林純子 2020年11月13日]
文化史
日本では雑草だが、中国では野菜の一つで、萕菜(チーツァイ)とよばれ、葉が厚く鋸歯の浅い板葉(パンイエ)萕菜(大葉(ターイエ)萕菜)や葉の細い散葉(サンイエ)萕菜(百脚(パイチヤオ)萕菜、花葉(ホワイエ)萕菜)などの品種があり、上海(シャンハイ)あたりでは周年出荷されている。中国の利用の歴史は古く、6世紀の『斉民要術(せいみんようじゅつ)』に、あつものの実に使うと載る。日本では平安時代初期の『新撰字鏡(しんせんじきょう)』(901ころ)に薺(なずな)、甘奈豆奈(あまなずな)の名で初見し、『延喜式(えんぎしき)』(927)には雑菜としてあがる。春の七草「セリ、ナズナ、オギョウ、ハコベラ、ホトケノザ、スズナ、スズシロこれぞ七草」の原形は、『年中行事秘抄』(永仁(えいにん)年間1293~1299に成立か)で、薺で始まり、蘩(はこべら)、芹(せり)、菁(すずな)、御形(おぎょう)、須々代(すずしろ)、佛座(ほとけのざ)と続く。江戸時代は陰暦4月8日にナズナを行灯(あんどん)につるして、虫除(むしよ)けのまじないにした。
ナズナの語源は、夏にない夏無(なつな)から由来(『日本釈名(しゃくみょう)』)、愛する菜の撫菜(なでな)(『和訓栞(わくんのしおり)』)などの説がある。また、朝鮮古語では萕はナジnaziで、これに日本語の菜(な)がついたナジナが語源とする見解もある(小倉進平(おぐらしんぺい)『朝鮮語方言の研究』)。
[湯浅浩史 2020年11月13日]