改訂新版 世界大百科事典 「ニエロ」の意味・わかりやすい解説
ニエロ
niello[イタリア]
nielle[フランス]
銀,鉛,銅,イオウ,硼砂を溶融した黒色合金。ラテン語のnigellus(黒い)に由来し,黒金と訳されることもある。小型の金属製品とくに銀製品において,ビュラン(彫刻用のみの一種)の彫溝にその合金粉を塡(つ)め加熱固着させ,画像をはっきりと見せるために使う。このような技術はギリシア人がすでに用いており,ビザンティン芸術にもあった。12世紀のテオフィルスの《諸芸術論》にも記されているが,13世紀末の作品も現存する。これを応用したニエロ版画は15世紀後半から16世紀初頭にかけてイタリア,とくにフィレンツェでつくられた。前記のように彫刻された金属板にニエロの代りにインキを塡め,紙に押し写せばニエロ版画になるが,印刷機の圧力によって銀のような軟らかい製品の歪みを避けるために,一度硫黄の鋳型にとって,それを原版にしたと考えられる。ルネサンスの美術家伝の著者G.バザーリがこれを銅版画の起源だと考えてその作者をM.フィニグエラとしたのは誤りであったが,イタリアの初期銅版画にニエロ技術の影響は認められている。
ニエロ版画はイタリアの15世紀後半から16世紀初頭までで,小型であること,数が少ないことが特徴。
執筆者:坂本 満
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報