日本大百科全書(ニッポニカ) 「ホウ砂」の意味・わかりやすい解説
ホウ砂
ほうしゃ
borax
ホウ酸塩鉱物の一種。硼砂とも表記される。古くから東洋ではティンカルtincalとよばれていた。鉱物学的にはホウ砂はNa2[B4O5(OH)4]・8H2Oで、英名boraxであるが、ティンカルという名前はNa2[B4O5(OH)4]・3H2Oのティンカルコナイトtincalconiteに残されている。加熱すると無水物になり、731℃で融解する。また種々の金属を溶かし込んで特有の色を与える。これはいわゆるホウ砂球反応で、重金属の定性分析に応用される。報告されている自形は八角形の断面をもつ短柱状で、1個の底面と2個の錐面(すいめん)をもつ。頂部の面の発達がなければ、形状的には普通輝石にそっくりである。
日本では産出は知られていないが、インド・カシミールやチベット地方で塩湖堆積(たいせき)物として産し、厖大(ぼうだい)な鉱床を形成する。また温泉に関係した堆積物や乾燥気候地域の土壌の表面にいわゆる表成鉱物として産する。共存鉱物は岩塩、石膏(せっこう)、方解石、ボウ硝(テナール石)などホウ酸塩鉱物を欠くものと、カーン石、ウレクサイトulexite(化学式NaCa[B5O6(OH)6]・5H2O)などホウ酸塩鉱物を伴うものとがある。同定は可溶性、完全な一方向の劈開(へきかい)、加熱による膨張と白色粉末化、炎で加熱すると融解することなどであるが、ティンカルコナイトも同様の性質を示すので、形態が出ていないと識別はできない。なおティンカルコナイトは天然のものでは自形はきわめて微細な擬立方体で、肉眼で識別可能な大きさのものは報告されていない。英名はアラビア語の白を意味するbauraqに由来するとされる。
[加藤 昭]