単板綱ネオピリナ科Neopilinidaeに属する軟体動物の総称であるが,とくにその中で1952年にデンマークの深海調査船ガラテア号によりパナマ沖で最初に発見され,体の構造がもっともよくわかっているNeopilina galatheaeを指すことも多い。この仲間は古生代カンブリア紀からデボン紀に栄えた単板類の生き残りで〈生きている化石〉の一つである。現生種は3属10種ある。殻は笠形で,カサガイに似ており,大きなものでも4cmに満たない。殻頂は前方に寄り,殻で覆われた軟体は頭部と腹部よりなり,頭部には眼も触角もないが,口には歯舌がある。外套(がいとう)膜の内側に5~6対の櫛(くし)状の簡単なえらがある。腹部の腹面にはまるい筋肉節の足がある。肛門は足より後ろにある。関節はないが後方へのびる足神経と側神経は10ヵ所で連絡し,足を縮める筋肉は8対あり,腎臓は6対,生殖腺は2対,えら静脈は2対など器官に多くの繰返し構造があって,軟体動物の中でもっとも環形動物に近いことを示し,もっとも原始的である。かつてはこの類の古生代の化石種は腹足綱のカサガイ類に入れられていたが,現生種の発見によって左右の神経が交叉していないこと,口が前端,肛門が後方にあるなどによって,腹足類とまったく異なる群であることがわかり,単板綱Monoplacophoraが確立した。腹足綱,二枚貝綱,ツノガイ綱,頭足綱などはこれから分化したとされる。
現生種は中央・南アメリカの太平洋沖,ハワイ沖,紅海アデン沖の1800~6500mくらいの泥底にすみ,泥食するが,カリフォルニア沖の1種は180~380mくらいの浅い岩れきの上にすむ。古生代の単板綱の種類は浅海の石灰性の砂岩から産出し,当時は腹足綱10種に対して1種弱がいた。
執筆者:波部 忠重
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広義には軟体動物門単板綱ネオピリナ科Trybliidaeに属する動物の総称で、狭義にはそのうちの代表的な1種Neopilina galatheaeをさす。種のネオピリナ(ガラテアガイ)は、1952年中央アメリカのコスタリカ沖、水深3570メートルの深海からデンマークの調査船ガラテア号によって採集された。長径37ミリメートル、短径35ミリメートル、殻高13ミリメートルの笠(かさ)形の殼をもち、目と頭部触角はない。口の両側に広い唇弁と口後触角がある。肛門(こうもん)は後方に位置する。えらは5対。腎臓(じんぞう)も神経も対性で、殻内面の筋肉痕(こん)は馬蹄(ばてい)形でなく8対に分かれている。この特徴は、古生代上部カンブリア紀から上部オルドビス紀の化石から現れるピリナPilinaにみられ、軟体動物の祖先が環形動物のような体節構造をもつという説を裏づけるものとされた。最初、胎殻は巻いていると報じられたが、現在はこの点は疑問視されている。
ついで1959年にユーインガイN. (Vema) ewingiが南アメリカの沖から発見され、以後現在までに同科には、中央太平洋に2種、東太平洋に7種、南大洋(太平洋、インド洋、大西洋の三大洋南部が一続きとなった海域)に2種、北大西洋に1種の合計12種が報告されている。ネオピリナ類は、いずれも水温2~3℃以下の軟らかい泥底にいて(1種だけは例外的に陸棚の岩礫(がんれき)上)、浮泥を餌(えさ)にしている。「生きている化石」の代表的なものである。
[奥谷喬司]
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…環形動物にはそれぞれ外形が非常に異なる六つの綱が含まれており,とくに多毛綱では外形がよく分化しているためにさまざまな形のものが見られる。 環形動物と軟体動物との幼生の形がよく似ているので両者は近縁なものと考えられてきたが,軟体動物で体に多少体節的構造が見られるネオピリナNeopilina(イラスト)が発見され,環形動物と軟体動物とはネオピリナのような祖先から体節制が失われて貝殻が発達して軟体動物になり,他方では体節が発達して殻を失い環形動物になったと考えられるようになった。 環形動物は多毛綱,貧毛綱,ヒル綱,吸口虫綱の4綱に分けられるが,これらの綱の間の類似点は比較的少ない。…
※「ネオピリナ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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