古生代を六つの紀に区分したときの第四番目の地質時代で、名称はこの時代の海成層が発達するイギリスのデボン県に由来する。シルル紀と石炭紀の間の約4億1920万年前から約3億5890万年前までの約6030万年間に相当する。デボン紀に形成された地層をデボン系という。デボン紀は魚類の時代といわれ、動物界では、軟骨魚類、甲冑魚(かっちゅうぎょ)類の無顎(むがく)類や板皮(ばんぴ)類の多くの種類が分化した。海生の無脊椎(せきつい)動物では、腔腸(こうちょう)動物の層孔虫類・床板サンゴ類が栄え、コケムシ類などとともに礁(しょう)を形成した。腕足類ではスピリファ科の分化が著しい。アンモナイト類もこの時代に出現している。陸上の無脊椎動物としては、節足動物門のクモ・ダニ、原始的な昆虫類の化石が知られている。植物界では、鱗木(りんぼく)などの木性シダ植物の大木が出現する。
シルル紀末から当紀の前半に、古大西洋(イアペタス海Iapetus Ocean)により隔てられていた古北米大陸がプレート運動で古ヨーロッパ大陸に接近・衝突し、広大なローレンシア大陸(ローレンシア台地)が形成された。両大陸が衝突した北アメリカのアパラチア地方からスコットランド北部のカレドニア地域を経てスカンジナビア半島・グリーンランド東部に連なる激しい造山運動があり、ヨーロッパではカレドニア造山運動、北アメリカではアパラチア造山運動として知られている。造山運動の結果生じた山地周辺や内陸盆地には、乾燥気候下で生成された旧赤色砂岩層が堆積(たいせき)した。サンゴ礁が広く分布することから気候は概して温暖であったと考えられるが、南半球の極地域には氷河の発達もあった。日本では、北上山地、阿武隈(あぶくま)山地、飛騨(ひだ)山地、西南日本外帯にシルル系とともに細長く分布し、ハチノスサンゴ、腕足類などのほかにシダ植物の化石も産する。
[小澤智生・小林文夫 2015年8月19日]
『エドウィン・H・コルバート著、田隅本生訳『脊椎動物の進化 上 魚類の出現から爬虫類時代まで』新版(1978・築地書館)』▽『ドゥーガル・ディクソン著、小畠郁生監訳『生命と地球の進化アトラスⅡ デボン紀から白亜紀』(2003・朝倉書店)』
古生代第4番目の紀で,イギリスのデボン州にちなんで命名された。約4億0800万年前から3億6000万年ほど前までのおよそ4800万年の期間を指す。シルル紀後期からこの紀の前半までは,主として海生無脊椎動物が繁栄していたが,そのころから甲冑魚類(甲皮類)や板皮類などの原始魚類が栄えはじめ,全体としてデボン紀は魚類時代とも称される。また,この紀は植物が初めて陸上へ進出する時でもあり,デボン紀初期のライニアなど古生マツバラン類がその先駆者となった。紀の後期には,すでにレプトフロエウムLeptophloeumのような,木生の鱗木類が森林を形づくるまでに至っている。植物の上陸に伴い,いち早くクモ類や昆虫類が陸上生活に適応し,シルル紀以前の海生生物期と対照的な生物界が現出した。さらに特筆すべき点は,魚類から進化したと思われる原始両生類のイクチオステガも発見されることで,デボン紀後期には脊椎動物が早くも陸上生活への移行を開始したことを示している。このような生物界における生活方式の大転換には,シルル紀後期からデボン紀初期にかけて起こった,世界的規模の造山運動であるカレドニア造山運動による環境変化が大きく影響を与えていたと考えられる。
日本のデボン紀は南部北上山地,飛驒山地,西南日本外帯にシルル紀層に密接に伴って分布し,流紋岩や安山岩質の火成作用があったことも示されている。前半には礁性石灰岩,中後期には砕屑岩が卓越し,レプトフロエウムも産出する。
→地質時代
執筆者:浜田 隆士
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