もとは古代エジプト文字の書体の一つをさしていたが、今日では古代エジプト文字の総称として用いられ、また比喩(ひゆ)的に漢字・マヤ文字などの象形文字をさすのに使われることもある。原義は「神聖な彫刻」で聖刻文字、神聖文字ともよばれる。
ギリシアの歴史家ヘロドトスは、古代エジプト文字をヒエログリフとデモティック(通俗文字・民衆文字)に分けたが、この場合ヒエログリフは石などに刻まれた記念碑的書体、デモティックはパピルスなどに記された草書体を意味していた。アレクサンドリアの神父クレメンスはこの中間にヒエラティック(神官文字)を置き、第三の書体(ヘロドトスのデモティック)をエピストグラフィカ(書簡体)とよんだが、これはエンコリアル(土着のもの)とよばれることもあった。近代になってヒエログリフがこれらを代表する用語となった。
[矢島文夫]
『ステファヌ・ロッシーニ著、矢島文夫訳『図説古代エジプト文字入門』(1996・河出書房新社)』▽『リチャード・H・ウィルキンソン著、近藤二郎監修、伊藤はるみ訳『図解古代エジプトシンボル事典』(2000・原書房)』▽『秋山慎一著『古代エジプト文字を読む事典』(2003・東京堂出版)』▽『ブリジット・マクダーモット著、近藤二郎監修、竹田悦子訳『古代エジプト文化とヒエログリフ』(2003・産調出版)』
古代エジプトの象形文字。聖刻文字,神聖文字ともよばれる。きわめて具象的で,1字1字の構成はエジプトの伝統的画法と完全に一致し,木面や石面に入念に彫られたり,壁画と併用された場合,その記録性とともに美的・装飾的効果をも発揮する。生命・安定などを意味する文字は,石製,陶製,金属製などの護符ともされた。前3100年ころから3000年余の長きにわたり使用され,その後長らく死語(または死文字)となっていたが,1822年フランスのJ.F.シャンポリオンによって解読された。それには単音のもの(24種),2音,3音を含むものがあるが,いずれも子音のみを表しているため,各語の発音の完全な復元は困難である。常時用いられた文字の数は700~800,その略書体にヒエラティック,デモティックがある。人間の動作,鳥,獣,魚などをそのまま表しているため,今日でも布地や陶磁器などの文様に用いられることが少なくない。
→エジプト文字
執筆者:加藤 一朗
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古代エジプト文字の書体の一つ。主に碑文などに用いられたため聖刻文字,神聖文字と訳す。絵文字から発達したもので総数約700文字,24の子音文字を持つ。起源的には,メソポタミアの文字から着想の面で影響を受けたことは考えられるが,エジプト独自に発展したという説が有力。
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…先王朝時代は遺跡・遺物に基づく考古学的研究が中心であり,第1王朝の成立(王朝時代の開始)とほとんど同時に文字史料が出現する。文字はいわゆるヒエログリフで,象形文字の原形を忠実に保存した狭義のヒエログリフ(聖刻文字),日常生活に使用されたヒエラティック(神官文字),前700年ころ出現するデモティック(民衆文字)の3書体があり,聖刻文字は主として記念碑や宗教テキストを金石に刻み,神官文字や民衆文字はパピルスやオストラコン(陶片や石灰岩片)に日常生活の記録類,学習教材,文学作品などを記している。エジプト語は古エジプト語,中エジプト語,新エジプト語と発展し,民衆文字で記された段階をデモティック語として新エジプト語から区別することもある。…
…これは正字法も整い,語彙も豊かで,格調高い《シヌヘの物語》などを生みだし,古典語とされた。この言語は時制が単純で,一定の語順が厳しく守られ,助動詞や接続詞を欠き,一般に叙述は静的であり,またおそらく絵画的な文字(ヒエログリフ)の性格とも相まって,哲学的・抽象的表現や情緒的なニュアンスの表現には不向きであった。しかし,明快な文体,激しいリアリズム,力強いパラレリズム(対句法)の多用などによって人心に強く訴えるものがある。…
…ヒエログリフ(聖刻文字)によって代表される古代エジプト文字のこと。ヒエログリフはシュメールの文字とともに世界最古の文字で,使用の上限は先史時代末期(前3200ころ)。…
…死後ローマに〈キルヒャー博物館〉が設置され,彼の残したおびただしい資料と文献は保管されることになったが,これはイギリスの〈アシュモリアン博物館〉と並ぶ世界最初期の公共資料施設である。 キルヒャーの最も壮大な試みの一つはエジプト聖刻文字(ヒエログリフ)の解読であった。28年にエジプトのオベリスクを写生した画集を通じて聖刻文字を知った彼は,36年にコプト語を手がかりに解読に着手,その成果を《エジプトのオイディプス》(1652‐54)として公表した。…
…象形文字は,漢字に限らない。古代エジプト文字すなわちヒエログリフ(聖刻文字)は典型的な象形文字であって,その装飾的字体は人,獣,鳥,ヘビ,器などの姿を如実に示している。メソポタミアの楔形(くさびがた)文字の原形も象形による文字であり,おそらくこのシュメール文字と関係のある原始エラム文字,またインダス文化の出土品にみられる原始インド文字(インド系文字),あるいは目下解読されつつあるクレタ文字,その影響と思われるヒッタイト文字など古代の原始的文字はみな象形文字である。…
…こうした神殿図書館のほかに王室図書館のあったことも知られている。しかし記録される文字が象形文字である間は,それがヒエログリフ(神聖文字)の名で呼ばれるように書字記録としては複雑で,いわゆる日常生活の記録には適しておらず,文字の使用は神官層に占有されざるをえなかった。 ギリシア人がそのリズミカルな音声を,フェニキア人の使う至便な原アルファベットで書き記すようになって,文字言葉による記録と思考が格段の発展をとげる。…
…現在大英博物館所蔵。上段,中段,下段にヒエログリフ(聖刻文字),デモティック(民衆文字。ヒエログリフの略書体),ギリシア文字で同一の内容の文(プトレマイオス5世をたたえる神官団の布告)が刻まれている。…
※「ヒエログリフ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
〘 名詞 〙 年の暮れに、その年の仕事を終えること。また、その日。《 季語・冬 》[初出の実例]「けふは大晦日(つごもり)一年中の仕事納(オサ)め」(出典:浄瑠璃・新版歌祭文(お染久松)(1780)油...
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