日本大百科全書(ニッポニカ) 「バゼーヌ」の意味・わかりやすい解説
バゼーヌ
ばぜーぬ
Jean Bazaine
(1904―1975)
フランスの画家。パリに生まれる。エコール・デ・ボザール(国立美術学校)で彫刻を学ぶが、しだいに絵画に関心を向けるようになり、1924年以降は彫刻を捨てて絵画に専念、アカデミー・ジュリアンで学ぶ。31年からサロン・ドートンヌに出品。翌32年には最初の個展を開催し、同展を見たボナールから励まされる。戦前は静物や室内を主題に、キュビスティックな手法で制作したが、キュビスムはあくまでも出発点にすぎず、印象派やボナールの芸術が彼にとって継承すべき伝統となる。その後しだいに非具象的傾向を強めていき、47年ごろには具象的なものが画面から消えてゆく。しかし彼の芸術は純粋な抽象とは異なっており、制作の根底にはつねに自然との交感がある。バゼーヌ自身、自らの作品が抽象であることを否定しており、「私が絵に描くものは自然を前にしたときに覚えた感情の結果なのだ」という。自然は画家の内面の詩情によって濾過(ろか)され、動的リズムと豊かなマチエールを伴った新たな姿で画面に現れる。彼はまた『現代絵画に関するノート』(1948)を著すなど、優れた理論家でもあった。
[大森達次]
『宗左近・田中梓訳『バゼーヌ芸術論』(1976・美術公論社)』▽『宗左近・柴田道子訳『白い画布』(1979・美術公論社)』