日本大百科全書(ニッポニカ) 「パスパ文字」の意味・わかりやすい解説
パスパ文字
ぱすぱもじ
中国、元のフビライ・ハン(世祖)が、チベットの高僧パスパ(八思巴)に命じてつくらせた表音文字。字形が角張っているところから、方形字ともよばれる。1260年パスパがこの文字をつくったが、まったくの創作ではなく、チベット文字をモンゴル語の表記に適するように改変したものであり、ウイグル式モンゴル文字を倣って、単語ごとにまとめて縦書きし、左から右に行を移すところに大きい特徴がある。
モンゴル民族統治下にある諸民族が使う正確な表音文字として誕生し、1269年に公布され、100年ほど使われた。勅命などの碑文、貨幣、牌子(はいし)、官印、私印などのほか、漢人の姓をパスパ文字で書いた「百家姓(ひゃっかせい)」と漢字の発音をパスパ文字で示した『蒙古字韻』が重要な資料として残っている。
[西田龍雄]