改訂新版 世界大百科事典 「パッシェン=バック効果」の意味・わかりやすい解説
パッシェン=バック効果 (パッシェンバックこうか)
Paschen-Back effect
原子スペクトルのゼーマン効果において,磁場を十分強くすると分裂線の構造が一定の単純なパターンに近づく現象。1912年,ドイツのパッシェンLouis Carl Heinrich Friedrich Paschen(1865-1947)とバックErnst Back(1881-1959)が発見した。電子は軌道角運動量のほかにスピンをもつので,弱磁場での発光スペクトルは,一重項間の遷移以外は,異常ゼーマン効果と呼ばれる複雑な構造を示す。しかし,磁場が大きくなって,磁気準位の間隔がスピン軌道相互作用によって分裂した準位(微細構造準位)の間隔よりも大きくなると,後者は無視できてスペクトルは等間隔の偏光した3本の線からなる正常ゼーマン効果に近づく。リチウムではスピン軌道相互作用で分裂した2P3/2と2P1/2の間隔が小さい(34m⁻1)ので数Tの磁場で完全なパッシェン=バック効果が観測されるが,ナトリウムの対応する間隔(D1線とD2線の分離1719m⁻1)は大きいので超強磁場を用いないとこの効果は起こらない。
→ゼーマン効果
執筆者:鈴木 勝久
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報