日本大百科全書(ニッポニカ) 「パッシェン」の意味・わかりやすい解説
パッシェン
ぱっしぇん
Louis Carl Heinrich Friedrich Paschen
(1865―1947)
ドイツの実験物理学者。ストラスブール、ベルリンの大学に学ぶ。1888年学位を取得、テーマは「気体の火花電圧(絶縁破壊電圧)は密度とギャップの長さの積の関数となる」という、いわゆる「パッシェンの法則」である。1888年ヒットルフの助手となり、精密測定技術を習得し、1891年ハノーバー工科大学助手、1895年同大学講師。トムソン型無定位電流計を製作し、赤外線領域における金属の不規則な選択反射の発見(1892)に次いで、炭酸ガス・水蒸気の赤外線吸収(1913年のビエラムNiels Bjerrum(1879―1958)の分子吸収の量子論的考察の実験的証拠)や蛍石(ほたるいし)などの分散率の測定などの分光学的研究を進めた。またこれを基礎に周囲の条件を考慮した綿密な固体の輻射(ふくしゃ)測定を行い、ウィーンの変位則・シュテファン-ボルツマンの法則(1897)、ウィーンの分布則(1899)を実験的に確証、熱輻射(熱放射)論の発展に寄与した。1901年チュービンゲン大学教授。1908年には分解能の高い光学器械を用いて、いわゆる水素スペクトルのパッシェン系列、1912年には強磁場中のゼーマン効果、いわゆる「パッシェン‐バック効果」を発見した。1916年にはヘリウムスペクトルの微細構造を調べ、ゾンマーフェルトの理論を裏づけた。1919年ボン大学教授、1924年国立物理工学研究所長となる。
[兵藤友博]