選択規則ともいう。量子力学において,物理系が一つの状態から他の状態へ遷移を起こすときに,量子数が満たさなければならない条件を表す規則。歴史的には,原子スペクトルにおける選択則が著名である。原子からの発光は,原子が高いエネルギーの状態から低い状態へ落ちるときに起こり,二つの状態のエネルギー差が発光線の振動数に対応する(エネルギー差をE,光の振動数をν,プランク定数をhとするとE=hνの関係がある)。一般に原子状態の組合せは非常にたくさんあるが,実際に発光が起こるのはそのうちのごく少数であり,ほかはきわめて弱く発光するか,まったく発光しない。この事実は20世紀初頭から経験的に知られていたが,量子論においては光の放出(または吸収)の起こる条件はそれに関与する二つの状態の量子数を使って次のように定式化される。(1)二つの状態は反対のパリティをもつ,すなわち,一方が偶状態で,他方が奇状態である(ラポルテの規則),(2)原子の全角運動量の量子数をJとするとき,Jの二つの状態間の差⊿Jが⊿J=0,±1を満たす(ただし0↔0の遷移を除く),(3)Jの任意の方向への射影Mについて二つの状態間の差⊿Mが⊿M=0,±1,(4)原子の軌道角運動量の量子数Lについては,⊿L=0,±1(ただし0↔0を除く),(5)スピン角運動量の量子数Sについて⊿S=0,の五つである(このうち,(4),(5)は角運動量の結合のしかたによっては成り立たないこともある)。
選択則は主となる物理系(非摂動系という)を乱す相互作用(摂動)があるとき,前者の二つの定常状態間の遷移確率,したがって摂動の行列要素が0にならないための条件を述べたものである。選択則を満たす遷移を許容,そうでないものを禁止という。
選択則は物理系の対称性に結びついた特定の物理量の保有則を表現するものと考えられる。上の例で,(1)は原子および摂動の空間反転に関する対称性とパリティの保存則,(2)から(5)は原子のまわりが等方的なことと角運動量の保存則を表している。並進に関して対称性をもつ系では,運動量の保存則に対応する選択則があって,例えば結晶による光の散乱や吸収を著しく限定する。原子が特定の結晶場内におかれたとき,準位が分裂したり,しなかったりするのも選択則の表れと考えられる。
原子と光の相互作用としては,電気双極子放射がもっとも重要で,その場合,上に述べた選択則が成り立つが,この遷移が禁止のときは別の選択則に従う高次の相互作用を考える必要が生ずることもある。選択則は,磁気双極子遷移ではパリティ不変,⊿J=0,±1(ただし,0↔0は禁止),電気四極子遷移ではパリティ不変,⊿J=0,±1,±2(ただし,0↔0,1/2↔1/2,0↔1は禁止)などである。選択則は原子スペクトル,原子核スペクトル,磁気共鳴スペクトルなどの解析にきわめて有効であり,また,原子核崩壊の可能な過程を選択したり,寿命の目安を得るのに利用される。
執筆者:鈴木 勝久
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
選択規則,選択律ともいう.系の二つの定常状態間の遷移が許容であるか,禁制であるかを決定する規則.系の二つの定常状態間の遷移確率の大きさは,その遷移モーメントの2乗に比例するが,この値が0になるかどうかは,遷移に関係する状態の固有関数の性質によって一義的に決められることが多い.たとえば,光吸収による電子遷移の場合,二つの固有関数のスピン多重度が異なっていて,スピン-軌道相互作用がない場合,遷移モーメントの値は0となる.したがって,この遷移に対するスペクトルは観測されない.このほか,電子遷移に対しては,分子の対称性による選択則などがある.また振動スペクトル,回転スペクトルなどに対しても,それぞれの選択則がある.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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