日本大百科全書(ニッポニカ) 「パトロナ鉱」の意味・わかりやすい解説
パトロナ鉱
ぱとろなこう
patronite
四硫化バナジウムの鉱物。四硫化物は化合物としては類例がない。結晶構造解析ではS2分子が2個V4+と結合しているものとされ、式がV(S2)2と書かれることもある。類似鉱物はない。自形は未報告。柱状の輪郭だけは電子顕微鏡下で確認されている。堆積(たいせき)岩中に発達する脈状の集合体からなり、バナジウムの鉱床を構成する。バナジウムの起源は堆積岩中に含まれる瀝青(れきせい)物質が選択的に移動したものと判断される。日本からの産出は報告されていない。
共存鉱物は自然硫黄(いおう)、石英、炭質物質、含ニッケル黄鉄鉱bravoite(化学式(Fe,Ni)S2)など。非結晶質物質が多い。肉眼的特徴は高品位の含パトロナ鉱鉱石の特徴しか得られていないが、帯藍黒色土状物質。緻密(ちみつ)な部分の割れ口は金属光沢。非常に低硬度。比重2.8は金属光沢物質としては小さい。命名はペルーの鉱山技師で最初に原産地ミナスラグラMinasragra鉱床を発見したアンテノル・リゾ・パトロンAntenor Rizo-Patrón(1866―1948)にちなむ。
[加藤 昭]