ヒッポリトス(読み)ひっぽりとす(英語表記)Hippolytos

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヒッポリトス」の意味・わかりやすい解説

ヒッポリトス(ギリシア神話)
ひっぽりとす
Hippolytos

ギリシア神話の英雄テセウスの子。青春のさなかにありながら、深くアルテミスを信仰していたヒッポリトスは狩猟を好み、山野を駆け巡って暮らしていた。そのため恋愛などにはまったく見向きもしなかった。テセウスの妻で彼の継母(ままはは)にあたるパイドラは、彼に不倫の恋をしかけるが拒絶され、テセウスに偽りの告げ口をして自殺する。それを信じたテセウスは、ポセイドンに息子の死を願った。ポセイドンは、トロイゼンの海岸で戦車を駆っていたヒッポリトスに海の怪物をけしかけたため、彼は驚く馬に振り落とされて死ぬ。一説には、アルテミスが医神アスクレピオスに命じて彼を生き返らせたともいう。またアテナイアテネ)やトロイゼンでは、彼は神として祀(まつ)られ、とくにトロイゼンでは、結婚前の青年男女が神前頭髪を奉納する祭祀(さいし)があったと伝えられる。ローマの伝説では、馬車から転落したヒッポリトスをアルテミス(ディアナ)がローマ近郊のネミに運び、ウィルビウスVirbiusと名をかえさせて、神として祀らせたともいう。

 ヒッポリトスの物語は、エウリピデスの『ヒッポリトス』、セネカの『パイドラ』、ラシーヌの『フェードル』に劇化された。

[伊藤照夫]


ヒッポリトス(エウリピデスの悲劇)
ひっぽりとす
Hippolytos

古代ギリシアの悲劇作家エウリピデスの悲劇。紀元前428年春、アテネの大ディオニシア祭に上演され、一等賞を得た。

 アテネ王テセウスの妻パイドラは、義理の息子ヒッポリトスに初めて会ったときから激しい恋心を抱く。初めそれは不倫の恋として秘匿されていたが、強いエロスの力に負けて露見、しかもその求愛はヒッポリトスの厳しい拒絶にあう。不倫の恋が夫に知られることを恐れたパイドラは、ヒッポリトスを讒言(ざんげん)する虚偽遺書を残して自殺し、ヒッポリトスもこの遺書をみた父テセウスの怒りに触れて破滅させられる。

 この作品は、愛の表現が露骨すぎて不評を買った同名の先行作品(断片)の改作とされるが、いずれにせよ『メデイア』などとともに、悲劇の原因を人間の内面に求めようとするこの詩人の代表作の一つといえよう。

[丹下和彦]

『松平千秋訳『ヒッポリュトス――パイドラーの恋』(岩波文庫)』『田中美知太郎・藤沢令夫他訳『エウリピデス篇Ⅱ』(『ギリシア悲劇全集4』所収・1960・人文書院)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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