日本大百科全書(ニッポニカ) 「フェードル」の意味・わかりやすい解説
フェードル
ふぇーどる
Phèdre
フランスの劇詩人ラシーヌの五幕韻文悲劇。1677年初演。アテナイ(アテネ)王テゼの留守中、王の後妻フェードルは先妻の息子イポリットへの不倫の恋に苦しみ、乳母(うば)エノーヌに打ち明ける。テゼの死の誤報が伝わり、王子は父が滅ぼした先王の娘で虜囚のアリシーに求愛し、姫も愛に報いる。王妃はわが子の安全を訴えるため王子に会うが、情念に灼(や)かれて真情を漏らし、「こんな恥ずかしい告白を、望んでしたとお思いか」と運命を呪(のろ)い、自殺を図る。そこへテゼが生還し、王妃は乳母の勧めで、王子が不倫を仕掛けたように装う。王は弁解しない王子に海神の呪いをかけて追放する。王子の心を知った王妃の怒りで乳母は投身し、王子は海魔に殺される。王妃は罪を告白して毒を仰ぐ。宿命的な情念に滅びる人間の内外の光と闇(やみ)を、暗喩(あんゆ)と諧調(かいちょう)に富む韻文で描いた名作。一部貴族の陰謀で二流詩人プラドンNicolas Pradon(1632―98)と同一主題の競作となった。作者ラシーヌはこの作で劇界を引退。
[岩瀬 孝]
『内藤濯訳『フェードル』(岩波文庫)』