子宮頸癌(読み)シキュウケイガン

デジタル大辞泉 「子宮頸癌」の意味・読み・例文・類語

しきゅうけい‐がん【子宮××癌】

子宮癌のうち子宮頸部に発生する癌。外子宮口にできることが多い。罹患りかん率は20歳代後半から40歳前後まで増加し、70歳代後半から再び増加する。性交により感染するヒトパピローマウイルスHPV)や喫煙などがリスク要因とされる。初期の段階では症状が全くないため、定期的に検診を受けることが早期発見につながる。→子宮体癌
[補説]HPV感染の一部はワクチンによる予防が可能で、日本では平成21年(2009)10月にワクチン接種が認可された。10代前半の接種で子宮頸癌の発生を7割減らす効果があるとされる。

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六訂版 家庭医学大全科 「子宮頸癌」の解説

子宮頸がん
しきゅうけいがん
Cervical cancer
(女性の病気と妊娠・出産)

どんな病気か

 子宮は、図11のように、「とっくり」を逆さにしたような形をしています。子宮の細い部分(頸部)の先端が腟の奥に突き出ています。子宮頸部の上皮(粘膜)から発生するがんのことを子宮頸がんといいます。がんは、はじめは上皮のなかにとどまっています(上皮内がん)が、次第に子宮の筋肉に浸潤(しんじゅん)します。さらに腟や子宮のまわりの組織に及んだり、骨盤内のリンパ節に転移したりします。さらに進行すると、膀胱・直腸を侵したり、肺・肝臓・骨などに転移したりします。

 子宮頸がんは、40、50代に最も多い病気ですが、20代の人や80歳以上の人にもみられます。

原因は何か

 ほとんどの子宮頸がんでヒトパピローマウイルス遺伝子が検出されます。そのため、このウイルスに感染することが子宮頸がんの発生の引き金と考えられています。このウイルスは性交により感染するので、初めて性交した年齢が低い人や多くの性交相手がいる人は子宮頸がんになる危険性が高くなります。

 しかし、実際に子宮頸がんになる人は、ウイルスに感染した人のなかの一部にすぎません。発がんには、ウイルスに感染した人の体質(遺伝子の不安定性や免疫など)も関係していると考えられています。

症状の現れ方

 初期の子宮頸がんではほとんどが無症状ですが、子宮がん検診で行う子宮頸部細胞診により発見することができます。

 自覚症状としては不正性器出血(月経以外の出血)が最も多く、とくに性交時に出血しやすくなります。おりもの帯下(たいげ))が増えることもあります。進行がんでは下腹部痛、腰痛、下肢痛や血尿、血便、排尿障害が現れることがあります。

検査と診断

 子宮頸部を綿棒などでこすって細胞診用の検体を採取します。細胞診で異型細胞が認められた場合には、腟拡大鏡コルポスコープ)で観察しながら、疑わしい部分の組織を採取します(ねらい組織診)。採取した組織を病理学的に検査して診断を確定します。進行がんの場合は肉眼で見ただけでわかりますが、確定のために細胞診と組織診を行います。さらに内診・直腸診で腫瘍の大きさや広がりを調べます。

 子宮頸がんの診断がついた場合は、胸部X線検査、経静脈性尿路造影(けいじょうみゃくせいにょうろぞうえい)膀胱鏡(ぼうこうきょう)、直腸鏡検査を行い、臨床進行期(表2)を決定します。腹部超音波検査・CT・MRIによって病変の広がりを調べることも、治療法の選択にあたり重要です。

治療の方法

 手術療法または放射線療法が子宮頸がんの主な治療法です。治療法は年齢・全身状態、病変の進行期を考慮して選択されます。治療成績は手術・放射線ともほぼ同じですが、日本では手術が可能なⅡ期までは手術療法が選ばれる傾向にあります。

 0期に対しては子宮頸部だけを円錐形(えんすいけい)に切り取る円錐切除術を行うことで、術後に妊娠の可能性を残すことができます。また、レーザー治療を行うこともあります。妊娠の希望がない場合は単純子宮全摘術を行うこともあります。

 Ia期(I期のなかで浸潤が浅いもの)の場合は単純子宮全摘術が標準的ですが、妊娠を強く希望される人の場合は、円錐切除術のみを行うことがあります。

 Ib~Ⅱ期の場合は広汎子宮全摘術(こうはんしきゅうぜんてきじゅつ)が一般的です。広汎子宮全摘術では、子宮・子宮傍組織・卵管・卵巣・腟の子宮側3分の1程度・骨盤リンパ節を摘出します。40歳未満の場合は卵巣を温存することもあります。摘出物の病理診断でリンパ節転移や切除断端にがんがあった場合は、術後に放射線療法を追加します。

 高齢者・全身状態の悪い人やⅢ・Ⅳ期の場合は、手術の負担が大きいため放射線療法を行います。

 放射線療法は通常、子宮を中心とした骨盤内の臓器におなかの外側から照射する「外部照射」と、子宮・腟の内側から細い器具を入れて照射する「腔内照射」を組み合わせて行います。放射線療法を行う際は、同時に抗がん薬(シスプラチンなど)を投与する化学放射線療法のほうが、放射線単独療法よりも治療効果が高いことが報告されており、最近では化学放射線療法が標準的になっています。

 肺・肝臓・骨などに遠隔転移がある場合、通常は化学療法が選択されます。

病気に気づいたらどうする

 不正性器出血があったら婦人科で検査を受けるのがよいでしょう。症状がなくても、年に1回程度は子宮がん検診(コラム)を受けることをすすめます。

山田 学


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「子宮頸癌」の解説

しきゅうけいがん【子宮頸がん Cancer of the Uterine Cervix】

[どんな病気か]
 従来、子宮頸がんで死亡する女性が、他の婦人科がん(子宮体がん、卵巣(らんそう)がん(「卵巣がん」))で亡くなる女性より多かったために、定期検診が普及しました。そして、この検診によって早期発見が可能となり、子宮頸がんの死亡率は、年々低下しています。
 また、子宮頸がんは治癒率(ちゆりつ)の高いがんで、進行期0期であれば100%治ります。がんが進行するほど治る率は低くなりますが、定期的に検診を受けていれば、早期のうち、あるいは前がん状態、すなわち子宮頸部異形成(しきゅうけいぶいけいせい)(「子宮頸部異形成」)の状態のうちに発見できます。
 ですから、子宮頸がんの場合、定期検診がもっとも有効な診断法なのです。
[原因]
 子宮頸がんは性交渉によるHPV(ヒトパピローマウイルス。イボウイルスの一種)感染が大きな原因のひとつです。HPV感染の危険因子として、早婚、不特定多数の性パートナーがいる、不潔な性生活、多産などが長年あげられてきました。現在では、性活動を行う女性の半数以上がいちどはHPVに感染すると推定されています。さらに、HPVに感染しても自然に治癒することが多いのですが、とくに喫煙、免疫機能の低下などの因子が加わると、前がん状態(子宮頸部異形成)からがんへ進みやすいことが知られています。
[症状]
 早期の子宮頸がんは、進行がゆっくりしていて、自覚症状もほとんどありませんから、定期検診で見つけることが必要です。
 しかし、進行すると、性交時の出血、不正性器出血、おりものの増加や血性(けつせい)おりものがみられるようになります。
[検査と診断]
 初期の子宮頸がんは自覚症状が少ないので、定期検診を受けるようにしてください。
 検診のしくみは、一次検診として、内診と細胞診(さいぼうしん)による検査を行ないます。これは痛みもなく、短い時間で簡単にできます。
 細胞診で異常があったときには、二次検診として精密検査を行ないます。精密検査は、コルポスコープ(拡大鏡)で見ながら病変部の組織を少量とり、顕微鏡で詳しく見る組織検査です。このとき多少の痛みと出血があります。
 定期検診以外でも、子宮頸がんの診断には、内診、細胞診、コルポスコープ、組織検査が行なわれます。
[治療]
 図「子宮頸がんの進行期分類と治癒率」の進行期0~Ⅱ期には、手術療法が主体となります。
 0期には、子宮頸部だけを円錐状(えんすいじょう)にけずる方法(未婚女性や妊娠・出産を希望する女性が対象)や、子宮全摘術(しきゅうぜんてきじゅつ)が行なわれます。
 Ⅰ期は、軽いⅠa期と、少し進んだⅠb期の2群に分けられ、Ⅰa期では準広汎性子宮全摘術(じゅんこうはんせいしきゅうぜんてきじゅつ)、Ⅰb期では広汎性子宮全摘術(こうはんせいしきゅうぜんてきじゅつ)が行なわれます。
 どちらも子宮の周囲組織をつけてとり去る手術で、そのとる広さが、準広汎性は子宮寄りで少なく、広汎性は骨盤骨(こつばんこつ)寄りで広く摘出します。どちらも手術後尿が出にくくなりますが、1か月ほどでほぼもとの状態にもどります。
 Ⅲ期やⅣ期では、放射線治療が主体で、ときには抗がん剤も使われます。
 放射線は、少しずつ照射するので6週間ぐらいかかります。その照射法は、腹部の周囲から5分間程度行なう体外照射法と、腟内に器具を入れて行なう腔内(くうない)照射法があり、この2つを組み合わせて行なわれます。
 子宮頸がんは、これらの治療法でよく治りますが、なかには治りにくいものもあります。それは腺(せん)がんです。
 子宮頸がんは、顕微鏡で見た細胞の形によって、おもに扁平上皮(へんぺいじょうひ)がんと腺(せん)がんに分けられます。現在は、子宮頸がんのうち、扁平上皮がんが85%、腺がんが15%の割合になっています。
 腺がんは、早期にリンパ節へ転移しやすく、また放射線が効かないため、治る率が扁平上皮がんより低いのです。しかし、腺がんでも0期には100%治るので、早期診断が非常に重要です。
 どちらにしても、子宮頸がんでもっともたいせつなことは、早期に見つけることです。症状がなくても、ぜひ定期検診を受けるようにしましょう。
 また、希望すればHPVワクチン予防接種を受けることができます(小学6年から高校1年の女子)。

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内科学 第10版 「子宮頸癌」の解説

子宮頸癌(子宮頸癌・子宮体癌・卵巣癌)

定義•概念
 子宮頸部に原発する癌を子宮頸癌(頸癌)という.
分類
 組織学的に扁平上皮癌,腺癌,腺扁平上皮癌などに分類され,扁平上皮癌がその約75%を占める.
原因•病因
 頸癌の発生には,その大部分にヒトパピローマウイルス(HPV)の感染が関与している.HPV感染は健常女性の約10~20%でも認められるが,ほとんどの場合は一過性である.頻度の少ない持続感染患者のごく一部に頸癌の前駆病変である異形成が発生する.異形成は,上皮内の異型細胞の広がりと異型の程度により軽度,中等度,高度に分類される.子宮頸部上皮内腫瘍(cervical intraepithelial neoplasia:CIN)という用語も用いられ,CIN1が軽度異形成,CIN2が中等度異形成,CIN3が高度異形成と上皮内癌に相当する.CIN1は自然消退することがほとんどだが,CIN3はその10~20%が浸潤癌へと進展する.その他のリスク因子として,性交開始が早い,加齢,multiple sex partner,多産,喫煙,HIV感染などがあげられている.
疫学
 年齢別の罹患率は20歳代後半から40歳前後まで増加した後,減少して70歳頃再び増加している.近年,罹患率・死亡率ともに若年層で増加傾向にある.
臨床症状
 初期癌の多くは無症状であるが,不正性器出血(性交時接触出血)を認めることがある.進行癌では,これに加えて骨盤痛や水腎症による背部痛などが出現する.
診断
 頸癌の約80%は医療機器の普及していない発展途上国で発生し,その大多数が術後進行期分類を適応しづらい進行癌であることから,診断の基本は,視触診と組織診を主とした治療開始前に決定される臨床進行期である.子宮頸部の細胞診異常を指摘された場合,コルポスコープ(膣拡大鏡)による頸部の観察と狙い組織診が必須である.組織診でも診断がつかない場合には診断的子宮頸部円錐切除術を行う.組織学的診断を得た後,MRI,CTなどの画像診断を参考に病巣の進展程度を評価して臨床進行期を決定する.また,扁平上皮癌の場合は,腫瘍マーカーとしてSCCが上昇する.
鑑別診断
 機能性出血,老人性腟炎などが鑑別疾患にあげられる.
治療•予防
 臨床進行期によって,手術療法,放射線療法,化学療法が単独あるいは組み合わせて施行される(図12-20-1).腫瘍径の大きいⅠB期以上の症例などに対しては,同時化学放射線療法(concurrent chemoradiotherapy:CCRT)も選択される.米国では,局所進行頸癌に対してはCCRTの方が放射線単独療法よりも予後がよいという報告がある.しかしながら,わが国と米国では放射線治療の方法が異なるため,その適応には十分な注意が必要である.
 一方,頸癌の一次予防対策として近年,HPVワクチンの接種が行われている.最も接種が推奨されるのは,10~14歳の女子であり初交前が望ましい.HPV既感染者に対しては,HPVワクチンにはウイルスを排除する効果がないことが示されている.
予後
 各進行期における5年生存率は,Ⅰ期80~85%,Ⅱ期60~65%,Ⅲ期40%,Ⅳ期15%程度である.[青木大輔・森定 徹]
■文献
Hildesheim A, Herrero R, et al: Effect of human papillomavirus 16/18 L1 viruslike particle vaccine among young women with preexisting infection: a randomized trial. JAMA, 298: 743-753, 2007.
日本婦人科腫瘍学会編:子宮頸癌治療ガイドライン 2011年版,金原出版,東京,2011.
日本産科婦人科学会,日本病理学会,他編:子宮頸癌取り扱い規約 第3版,金原出版,東京,2012.

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百科事典マイペディア 「子宮頸癌」の意味・わかりやすい解説

子宮頸癌【しきゅうけいがん】

子宮癌

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世界大百科事典(旧版)内の子宮頸癌の言及

【子宮癌】より

…しかし,子宮癌は他の癌より治る率がかなり高いことを考えると,実際に子宮癌にかかる人は,女子では胃癌とあまり違わないほど多く,1年に1万数千人発生していると推定される。癌というと,非常に治りにくい,恐ろしい病気と考えられているが,子宮頸癌の場合は,全体の平均として2/3以上の人が治る。しかも,比較的容易に早期発見できる方法がすでに確立している。…

【生検】より

…なお擦過生検の一つの変法になるが,ある種の液体で臓器の表面を数回にわたり洗浄して細胞を採取する洗浄細胞診がある。子宮頸癌の早期発見に用いられ,一般の人がセットを腟へ挿入して洗浄し,細胞を採取するもので,自己採取法と呼ばれる。郵送すれば結果が送られてくる簡便なもので,推奨される方法である。…

【帯下】より

白帯下は無色透明ないし白色,淡黄白色のものであり,黄帯下は膿性のために黄色が強くなったもので,細菌と白血球が多く,炎症性の場合に多い。血性帯下は血膿の少量混入したものであり,子宮頸癌では肉汁様の帯下で,強い腐敗臭を発することがある。 帯下は,部位によって,外陰,腟,子宮帯下に分けられる。…

※「子宮頸癌」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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