日本大百科全書(ニッポニカ) 「ビチャー」の意味・わかりやすい解説
ビチャー
びちゃー
bichir
[学] Polypterus bichir
硬骨魚綱多鰭目ポリプテルス科に属する淡水魚。ナイル川、トゥルカナ湖(ルドルフ湖)、チャド湖などに分布し、よく草木が茂った湖や川の岸辺の砂泥底にすむ。一般に多鰭魚ともいう。チョウザメ類とともに原始的な硬骨魚類である。多鰭魚の名前の通り、背びれが十数本の小さなひれからなり、それぞれに1本の棘(とげ)と、それに付着した2本以上の軟条がある。体は細長くて1メートル前後あり、厚くて菱形をした硬鱗(こうりん)で覆われる。また、胸びれが扇状で基部が腕状であること、左右2室に分かれた鰾(うきぶくろ)が肺のような構造で血管が発達し、空気呼吸に役だてられること、腸での吸収をよくするためその内面に螺旋弁(らせんべん)があることなど、原始的な特徴をもつ。体色は背側が灰緑色、腹面が黄白色を帯びる。夜行性で、肉食である。雨期には水底をはったり蛇行して、小魚などを食べる。乾期には泥の中に体を埋めて仮死状態となり、鰾で空気を呼吸する。7~9月の雨期に産卵する。雄では臀(しり)びれが大きくなり、基底に筋肉の塊ができて、輸尿管や生殖管が急に腹方に向かうようになる。卵は緑色を帯びる。産卵後に卵は水中に放出され、水面近くの小枝や草に付着する。仔魚(しぎょ)はイモリの幼生のような形をし、鰓孔(さいこう)の上方の皮膚から長い4対の外鰓を出す。また、頭部に粘着の液を出す特別な固着器官があって、これで水草の裏面に固着する。肉は白身で美味である。この類のもっとも古い化石は、白亜紀後期の地層から発見されている。
[落合 明・尼岡邦夫]